三十三間堂 通し矢 2012年


15日は、三十三間堂通し矢が行われました。

通し矢は、全国から集まった新成人たちが弓を射る儀式として広く知られています。現在の正式名称は「大的全国大会(おおまとぜんこくたいかい)」で、その参加者数は男女合わせて約2000人ともなります。予選では各12人ずつが持ち時間2分20秒で、60m先の1mの大きさの的に2本の矢を射ます。この持ち時間は短いようで、運営側からは動作をせかす声が結構な頻度であがります。しかし射る新成人のほとんどの方にとって、三十三間堂で矢を射られるのは一生に一度の機会。限られた中でも自分のタイミングで集中をし、命中させようと顔は真剣そのものです。

60mという距離は、現在の弓道でいう遠的(えんてき)の距離にあたり、複数人(予選では3名)で一つの的を狙います。つまり的の正面に立てないこともあります。さらに、ほとんどの練習道場はより近い場所を狙う近的(きんてき)用で、遠的は感覚が異なるとともに風の影響を受けやすく、非常に当てにくいようです(矢も違うのだとか)。ということで、ほとんど的に当たりません。成年男子の部では、約1000人が挑戦をした中で2本とも的中させて決勝に進出できたのは、わずかに30名ほどでした。まさに参加することに意義がある行事なのですね。

また、中には、弓矢の弦が緩んでほとんど飛ばない、射る前に弦が切れてしまうなど、不幸なトラブルに見舞われてしまう方もおられました。矢を落とす方もおられましたが、その場合は時間の都合でその矢は射ることができません。もしかすると弓道大会では普通なのかもしれませんが、傍から見ているとちょっとかわいそうでした。

カメラマンや見学者からの人気が高いのは成年女子の部。色とりどりの艶やかな袴姿で弓を射る様は、美しい日本女性像の象徴でもあるかもしれません。男女とも所作は凛々しく、射た後の残心(ざんしん)の姿勢も印象的。的に当てても外しても、表情をほとんど変えないところも作法の一つなのでしょう。

通し矢は、江戸時代には盛んに行われました。特に有名なのは「大矢数(おおやかず)」で、なんと一昼夜(24時間)の間に的中した矢の数を競いました。距離は現在の倍の120mで、場所も三十三間堂の外廊下で行われました。つまりすぐそばにはお堂の壁(扉)があり、上には庇(ひさし)も出ています。これは当てるだけでも非常に難しそうですが、それを一昼夜とはマラソンもびっくりの過酷な競技です。さらに驚くべきはその記録。紀伊藩の和佐大八郎は8133本命中させました。これは10秒~11秒に1本ほどのペースで当てた計算となります。しかもこれは「当てた数」。射た数は驚きの13053本!平均で6秒~7秒に1本のペースでどんどん射て、その6割以上を当てて行きます。すごいですね!

大矢数は、全国の大名家から集まった腕に覚えのある武士が参加しましたが、そのトップには「天下一」の称号が与えられます。やがて徳川の御三家、尾張家と紀州家との代理戦争の様相を呈して、お互いに記録を更新しあっていきました。和佐大八郎の前の記録保持者は、尾張の星野勘左衛門。記録は10542本射て8000本命中!的中率は驚異の約76%!!8000本というキリのよい数で残り6時間を残して終了しました。もし最後まで続けていたら、10000本を超える的中記録も残ったかもしれませんね。和佐大八郎の記録の時には星野勘左衛門も見に来ており、大八郎が疲労で腕がうっ血して調子が落ちてしまったところに現れ、治療を施したといわれています。現在も彼らの記録を書いて奉納された絵馬は、三十三間堂の堂内で見ることができます。また、お堂の西側には矢でお堂が痛むのを防ぐためにはめられた鉄板も残されています。

別名「頭痛山 平癒寺」とも呼ばれる三十三間堂では、この日は柳のお加持として頭痛平癒にご利益がある法水を、柳の枝から頭につけて頂けます。この儀式は、後白河上皇の頭痛平癒の逸話に由来し、科学的にも柳にはサリシンという鎮痛成分が含まれているのだとか。堂内は無料公開されており「お加持」を待つ方々で大変な混雑。ゆっくりと流れてはいきますが、それなりの時間を見込んでいかれるとよいでしょう。余談ですが、三十三間堂へと続く七条大橋の欄干の装飾も矢をかたどっています。

なお今回は、奇跡的に射る場所に最も近い一番前で写真を撮らせていただくことができました。周辺は大変な混雑で、ご家族・関係者の方々もこうして写真を撮ることは非常に難しかったと思います。もしご本人様やそのご家族の方などで、記念に写真を探されている方がおられましたら、【ゼッケン番号を明記】の上「お問い合わせ」からご連絡ください。当方にて写真があるようでしたら、メールで送付させていただきます。ただし「白」の的を狙われていた方以外は、後ろに隠れてほとんど映っておりません。また、撮影できているのは、50番台以降1240番くらいまでの皆様です。写していない場面も多々ありますので、ご期待に添えないこともあるかと思います。その際はご容赦ください。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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