上賀茂神社の菖蒲の根合せ 藤森祭と伏見稲荷


5日は上賀茂神社では競馬(くらべうま)、藤森神社では藤森祭の駆馬神事が行われました。いずれも人気を集める神事ですが、今回はその裏で午前中に行われている行事をご紹介したいと思います。

竜巻の被害

関東各地では大規模な竜巻被害が発生してしまいました。被害状況から見ると、竜巻の強さを分類するFスケール(藤田スケール)で、F2~F3に相当しそうです。F3の竜巻は日本では最大規模の竜巻で、しっかりした家でも倒壊させるほど。滅多に発生することはありません。今後の調査が待たれます。F2の竜巻は昨年も発生しました。具体的にはF2のクラスでも「50m/s以上」の風を吹かせます。風速50m/sを時速になおすと、新幹線並みの180km/hにもなりますが、これでもF2の最低ライン。風速50m/sだとおよそ窓ガラス1枚当たり(1㎡)に125kgもの重さがかかります。それが勢いを持った飛来物とともにぶつかってくるわけですから、窓ガラスは簡単に割れ、屋根もはがされ、重い自動車さえも道を転がることがあります。竜巻を見つけたらすぐに!コンクリートなどの頑丈な建物に避難をすること。一般的な家屋では正直なところ不十分で、運に任せるしかないところもあります・・・。しかし、それでもすぐに退避行動を取ることが大切。

竜巻は、台風の活発な積乱雲に伴って発生する頻度が高い傾向はあるものの、全体的には季節を問わず発生します。年平均では13個ほどですが、2010年は37個発生しています。場所は日本中どこでも発生し、特に沿岸部に多い傾向があります。一人の人間が一生に一度見るかどうかというものではありますが、巻き込まれるとその被害は甚大です。また、竜巻の移動速度は思っている以上に速く、見かけたらすぐに頑丈な建物に避難すること、ガラスなどからは離れることが肝要です。カメラで撮影したり、物見な気分でいると、あっという間に向ってくることもあるので、くどいようですが竜巻を見かけたら「すぐに!」退避行動をとって下さい。

竜巻を直接的に予想するのは非常に難しいものの、竜巻注意情報として気象台から1時間ほど前には注意喚起が行われることがあります。竜巻は発達した積乱雲に伴って発生する激しい渦巻。真っ黒い雲が近づいてきたり、雷が鳴ったり、雹が降ってきたり、強い雨が降ったり、風が吹きだしたりしたら、警戒をして下さい。ろうと状の雲が積乱雲から垂れ下がっていると、それは竜巻の可能性があります。頑丈な建物に避難をし、カーテンは閉め、窓ガラスから離れて下さい。木造家屋では2階よりも1階のほうがまだ安全。屋外では、プレハブや小屋などの簡易な建物では一瞬で倒壊しかねず、木の下では木そのものが倒れる危険もあるため、とにかく頑丈な建物を探して下さい。

上賀茂神社の菖蒲の根合せ

5日は京都各地で祭事やイベントが盛りだくさんの一日でした。人気のある神事では、上賀茂神社の競馬(くらべうま)会神事、藤森神社の駆馬神事があります。駆馬神事では、馬に乗りながら倒立をしたりといった曲乗(きょくのり)の見事な技が披露され、競馬では白熱した馬の競争が見られます。今年は所用によりいずれも見られませんでしたが、それぞれ別途午前中に行われる、面白い神事を見てきました。

上賀茂神社では午前9時~、菖蒲の根合せが行われます。午後に競馬を行う乗尻(のりじり:騎手)が、白い根の付いた菖蒲を持ちよって、馬で勝負を着ける前に、まずは菖蒲の根の長さを競うという神事です。これは邪を払う神事で、菖蒲は独特な香りを持ち、虫が寄り付かない=邪悪なものが寄り付かないと考えられたそう。今は実際に勝ち負けが判定されることはありませんが、平安時代には宮廷貴族に好まれた遊びでもありました。白黒をはっきりつけたい時には「菖蒲の根合せ」が行われたそうです。実は競馬は、宮中の女性が菖蒲の根合せに勝つようにと賀茂の神に祈願をし、実際に勝てたお礼として奉納したのが起こりといわれます。根合せの方が、元祖ということですね。

根合せの前には、賀茂の神が競馬などをご覧になるために、馬場に設けられた頓宮に遷られる神事も行われます。頓宮の前にはちゃんと立砂も設けられ、松の葉も立っていました。まさに小さな神社です。菖蒲の根合せは、頓宮前で行われます。それぞれの根の長さを比べた後、相手の菖蒲を受け取って、それを折ります。菖蒲は勝負にも言葉が通じる頓宮前の根合せが終わると、終了のアナウンスがありますが、本殿前の棚尾神社の前でも、もう一度行われています。

藤森祭と伏見稲荷

一方、藤森神社では藤森祭で、神輿が氏子地域を巡行しました。その道中で、神輿はなんと別の神社である伏見稲荷大社の中へと入っていきます。赤い鳥居を藤森神社の神輿がくぐるというのはなかなか見もの。もともと藤森神社は伏見稲荷ができるよりも古い由緒を持つ古社で、かつては藤森地域一帯に点在して社を構えていたといわれます。現在の伏見稲荷大社のふもとの境内地も、かつては藤森神社の境内地でした。やがて稲荷山の山上にあった稲荷社をふもとに遷す際に、藤森社の境内地をかりたということです。そのため、もともとの境内地がある伏見稲荷の中に藤森神社の神輿が入り、藤森の神を祀る藤尾社の前に三基の神輿が鎮座をして神事が行われます。

言い伝えでは、稲荷側が土地を借りる際に、稲藁の束を置く場所を借りたいといい、藤森社がそれならばたいした広さの土地はいらないだろうと思って了承したところ、なんと稲荷側は藁を1本づつ並べて大変広く土地を囲い、その中に社を建てたといわれます。かつては藤森祭で騎馬の上から「土地返しや」と稲荷側に声をかけると「今お留守」と返すやりとりがあったそう。居留守を使うというのは面白いですね。こうした経緯もあってか、伏見稲荷大社の門前の家々も藤森神社の氏子圏となっています。

さて、露払いで剣鉾が音を鳴らしながら、伏見稲荷の鳥居をくぐってきます。剣鉾は粟田神社があまりにも有名ですが、京都各地の祭事で見ることができます。藤森神社の神輿には女神輿もあって、続いて鳥居をくぐってきました。女神輿は神事には参加しませんが、輿丁(よちょう:担ぎ手)は扇を手に持って、後からやってくる男神輿を迎えます。また、神輿が入った後には鼓笛隊や武者行列も伏見稲荷から出発します。まさに地元の皆様が、男女を問わず小さいときから関わって来られるのでしょう。京都は観光都市ではありますが、やはりお祭りは地元の方々のもの。特に藤森神社は平安京以前の歴史を持つ京都有数の古社で、地元とのつながりが深い神社です。この先も、長く長く伝統を伝えていってほしいと思います。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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