下鴨神社の御蔭祭


昨日は葵祭の路頭の儀が行われました。他にも5月の初めから葵祭の各神事が行われており、12日に行われた下鴨神社の神迎えの神事、御蔭祭(みかげまつり)をご紹介します。

12日には下鴨神社の神迎えの神事・御蔭祭が行われました。下鴨神社は毎年新しい神霊・荒御霊をお迎えして社殿の神の力と合わせることによって、神の力を常に保っています。その論理からすれば、新しい神の力が加わった今は、下鴨の神のパワーは一年で最も強いとも言えるでしょう。下鴨神社の神が降り立つ(お生まれになる)のは、高野川をさかのぼった比叡山の麓にある御蔭山に立つ、御蔭神社。普段はほとんど人影のない神社です。賀茂の神は風水害を起こすとも考えられた水の神でもあり、上賀茂神社は賀茂川にそった神山(こうやま)に、下鴨神社は高野川にそって神の降臨地を持ちます。それ故、それぞれの神社は本来別々の神社だったとする説もあります。

下鴨の御蔭祭は朝に下鴨神社を出発し、現在は糺の森からバスで御蔭神社に移動し、12時ちょうどから神迎えの神事が始まります。御蔭神社は八瀬比叡山口の駅からも近く、叡山電車で移動をして両方見ることも十分可能です。さて、12時は正午。すなわち午の刻のど真ん中で、太陽が最も高く昇り南中する時間。かつては四月中の午の日に神事は行われていました。ちょうどこの日は一瞬曇っていた空から日差しが戻り、氏子の方からは「やっぱり神のお力・・・」といった声も聞こえてきました。私の手元できちんとした資料での裏付けはできていませんが、下鴨の神は太陽信仰とも関連するのかもと感じました。一方で、同じ日に行われる上賀茂神社の神迎え・御阿礼(みあれ)神事は深夜に行われます。同じ日に行われる神迎えでも、かたや真昼、かたや真夜中。不思議ですね。

さて、下鴨神社の神迎えは綏靖(すいぜい)天皇の時代に始まるとの言い伝えもあり、具体的には紀元前581年だそうです。初代天皇が神武天皇で、2代目が綏靖天皇。日本史における欠史八代の筆頭で、実在しなかったとする説が有力な天皇です。いずれにしてもこの神迎えの神事は、平安京の時代よりもずっとずっと古くからあった根本的な神事ということです。12時になり、幕に閉ざされた神社の中で神が生まれ、神職の「おぉー」という警蹕(けいひつ:先払いのこと)とともに箱に入れられた、荒御霊が運ばれます。この段階ではまだ人の手によって運ばれています。実は昭和30年代までは御蔭神社の前まで神馬が入り、東遊(あずまあそび)の舞の奉納もあったそうですが、現在は行われていません。残念なことです。荒御霊を迎えた一行は山中を進んで鳥居の前を曲がり、ココが一つの写真の撮影ポイント。多くのカメラマンが待ち構えていました。荒御霊は道まで出ると、車に乗せられて移動します。

移動先は、下鴨神社ではなく、赤の宮神社です。この地は古くから賀茂社の領地で、神が降り立つ・神奈備(かんなび)があった場所の一つ。そのため荒御霊はこの社にも立ち寄って、一行は道中の無事を祈ります。境内は露店も出て大賑わいですが、その中に神を乗せたトラックが相当な運転テクニックで入っていきます。かつては神馬だったのだと思いますが、現代の馬と言えばやはり車になるのでしょう。神馬ならぬ神車といったところでしょうか。そして車上の神が見守る中で、舞楽(還城楽)が奉納されます。

続いて一行はとある場所の公園へと移動します。公園では馬が待機をしていて、荒御霊が車で到着するとジャングルジムの裏に設けられた幕の中で馬の背へと神が移されます。神は通常、神輿に乗って旅(巡行)をしますが、賀茂社の神事ではお神輿は用いず、基本的に神馬の背に乗って荒御霊が移動するのが特徴です。これは最古の神幸列の形式と言われ、他にも古い形式の祭事形態が伝えられています。

その後、行列は下鴨中通を下って、糺の森へと入ります。糺の森の途中には神事を行う場所が設けられています。ここは辺りより少し広くなっていて切芝といわれ、神事は切芝神事と呼ばれます。糺の森にも数々の神が宿っており、その神々に葵と桂・神饌をお供えをして、荒御霊を迎えて頂き、一緒に東遊を眺めて楽しまれるのです。東遊とは、東国に由来を持つ歌や舞のことで、平安時代から賀茂祭で舞われるようになりました。

枕草子にも清少納言が好きな舞として、東遊の駿河舞・求子(もとご)舞が登場します。まさにこの切芝神事で見られるのは、駿河舞と求子舞だそうで、平安時代に清少納言が感じた「いとおかし」の世界を私たちも時代を超えて感じることが出来るのです。舞や歌はとても優雅で、印象に残る旋律です。

美しい舞が終わると、神馬上の荒御霊をご本殿へと移す神事が行われます。その際、荒御霊は御生木(みあれぎ)という榊の若木にお移りになって、御本殿へと移動されます。本殿での神事は非公開で、拝殿前の門が閉められ、およそ1時間弱かかって神事が行われます。門の外では待っておられる方も結構いらっしゃいます。新しい神が合わさることで、向こう一年の力を得た賀茂の神。今年も祟りを起こすことなく、風水害が少なくなるように鎮まって頂きたいと願います。


ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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