鞍馬の火祭 チョッペンの儀から御旅所へ


10月22日に行われた鞍馬の火祭。最終回はチョッペンの儀や巡行する神輿、御旅所への神輿入りの場面をご紹介します。

さて、御旅所で注連縄切りを見た後は山門方面へと向かいましたが、大変な混雑ぶりで列が前へと進んで行きません。その間にはイライラが募って誘導の警察官に文句を言う方を多数お見かけしました。警察官は事故を起こさないことを最も大切にしていますので、かなり安全目に、どう見ても規制をもう少し緩めても大丈夫と思える場面でも、上からの指示があるまで一切緩めません。予めそういうものだという心構えと、時間的な余裕を見ておかないと、ただただストレスばかりが溜まるお祭り見物になってしまうことでしょう。私がなんとか山門が見える距離まで近づいた時には、御旅所を出てから1時間が経っていました。

山門下が見える頃には、ちょうど神輿が山門からの石段を下りてくる場面でした。急な階段を下りるときに行われるのが「チョッペンの儀」です。若者が神輿の長柄の先端に下から巻きついて足を広げ、逆さ大の字になり、下から別の人がそれを支えながら下りるというものです。この不思議な所作は一般的には鞍馬の成人儀礼の名残といわれ、長柄の先端で逆さ大の字になる者は、神輿が前のめりになってしまうと回避ができずに最も危険にさらされるため、チョッペンを任されるのは一人前=大人ということのようです。

また、私の手元の古文献では、「チョッペンの儀」は「急な石段を下りるための担ぎ方の一つ」という見解もあります。つまり、急な石段では神輿が斜めになるのを防ぐために、長柄の先端を出来るだけ高く掲げる必要があります。そのために長柄の先端の下に人が入り、その人をさらに下から支えることで、神輿をより高く掲げるのだというものです。実際、階段の平たん部では「チョッペン」は行われれず、階段を下るときのみこの所作が行われますので、一理ある見解だと思います。いずれにしても見ていて「おぉ~」と歓声が上がる儀式であることには間違いありません。なお、このチョッペンの儀が近くで見られるかどうかも運の要素が非常に大きく、今回は人混みをすり抜けて、苦労をしながらギリギリのところで写真や動画を撮ることができました。

山門を下りた神輿はまず街道の上の方へと巡行していきます。鞍馬の人々は手に手に松明を持ち「さいれいや さいりょう」のかけ声と太鼓の音で盛り上がりながら進んで行くのです。鞍馬の火祭では、女性も祭りに積極的に加わります。神輿を石段から下ろす際には、神輿の後ろから綱で引っ張るのが女性の役割で、この綱に触ると安産になると言われています。これはそもそも人口の限られた山里であるため、必然的に女性が必要とされたからだという見解が主流です。神輿の後ろに付いている太鼓は私の手元の古文献によると昭和の前半にはなかったはずですが、今では女性が元気よく叩いて祭りの彩りには欠かせないものとなっています。

この頃になると観光客の数が減って規制線も解除されてきます。巡行する神輿の綱は一般の観光客にも握らせていただけました。そして神輿が山門下へと戻ってくるころに巡行に加わるのは、茶筅のような形をした「神楽」と呼ばれる大松明。特に形が綺麗に作られています。神楽松明は御旅所の外に並べられ、その前では若者たちによって代わる代わる「さいれや さいりょう」のかけ声が上げられます。

神輿は街道の下まで巡行した後、御旅所へと戻り、いよいよ御旅所内に入っていきます。かけ声を合わせて神輿を担ぐ姿はどのお祭りも変わらぬ力強さがありますね。御旅所にもお祭りを最後まで見ようとする人々が集まって再び混雑しています。

2基のお神輿が威勢よく担がれながら御旅所に安置されると、チョッペンを行った若者を最前列にした神輿前の組とその下の組とに分かれ、「三顧の礼」で「さいれや さいりょう」の声が何度も上げられ、神輿の鎮座が祝われます。その最後には神輿の置かれた舞台から勢いよく若者たちが下りていきます。力いっぱいの様子は是非動画でもご覧ください。続いて、神楽松明が御旅所内を巡行します。その後、振る舞い酒が出て、最後には神楽松明も燃やされました。

鞍馬では「1年は13カ月」と言われるそうです。祭りのために1カ月分多く働き、また祭りのために1カ月分多く食いぶち(資金)を用意しておくのです。祭りのしきたりも子どもの頃から祭りに加わることで、古くからの風習が守られています。一度見ると、何度も見に行きたくなるといわれる鞍馬の火祭ですが、混雑ぶりがやはりすごいです。今年は雨予報や平日だったこともあって人出は7千人との発表があり、大河ドラマ「義経」が放送された年の1万6千人に比べれば半分以下でした。それでも、やはり身動きを取るのは大変です。素晴らしい祭りなだけに、今後も事故なく、いさかいなく、祭りを見学できるとよいですね。伝統を伝えて下さる鞍馬の方々にも感謝するばかりです。




ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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