伏見稲荷大社 初午大祭


2月9日に伏見稲荷大社初午(はつうま)大祭が行われました。

初午大祭は、伏見稲荷大社の神が鎮座した「2月初午」の日に行われます。そのため日付は毎年変わり、今年は2月9日でした。稲荷の神は、和銅4(711)年の2月初午の日、稲荷の三ヶ峰に降り立ちました。これには有名な逸話があります。秦氏の一族で大富豪だった秦伊呂具(はたのいろぐ)が、弓矢で遊んだ時、手近に的になるものが無かったので餅をこねて的を作り、矢を射かけました。すると、餅は3羽の白い鳥に姿を変え、彼方の山に飛び去って行ったのです。

白い鳥が飛び去った後、どういうわけか秦伊呂具の家は日に日に貧しくなっていきました。ついには生活にも困るようになった秦伊呂具が陰陽師に占わせたところ、陰陽師は五穀の神の祟りであると告げました。伊呂具には思い当たる節があります。そうです、大切な食料である餅を、あろうことか的にして矢を射かけたのです。伊呂具は慌てて、白い鳥が飛び去った東の山へと登り峯を探すと、3つに分かれた峯にそれぞれ稲が成っていました。

伊呂具は、これは神がなしたことだと思い、その地に社を建てて祀り、稲荷社が創建されました。稲が成ったところからイネナリ→イナリと呼ばれるようになっていきます。一方で、以後伊呂具の家は貧しくなってしまったため、子孫は山から杉の小枝を持ち帰り、自らの家に祀りました。やがて杉の枝には根が生じ、杉が成長するにつれ、再び家も栄えて元の富豪へと戻っていったということです。こうした由緒から、古くから稲荷詣での際には杉の枝を持ち帰る風習があり、特に参拝者で賑わった初午の日には稲荷山の杉の木からすっかり葉が無くなってしまったという歌まで残されています。

現在の伏見稲荷でも2月初午の日の頃に、縁起物の「しるしの杉」が授与されており、商売繁盛・家内安全のお守りとして多くの参拝者が買い求めていきます。まさに初午の日に参拝した「しるし」ですね。本来はこの杉を庭に植え、根付かせるのが習わしだそうですが、現在は御幣として飾るものとなっています。しるしの杉にはオカメさんのような顔も付いていて、これは「巫女」だとか稲荷三神の「大宮能売大神(おおみやのめのおおかみ)」だといわれています。今年は私も一本手に入れました。京都旅屋の発展を祈願したいと思います。

さて、昔は初午の日の前日から賑わっていた初午大祭。あえて前日の夕方に訪れてみると、外拝殿には奉納されたお酒がズラリ。さらには野菜や果物といった生鮮食品がまさに並べられている最中でした。その量はさすがお稲荷さんの総本宮・伏見稲荷といえるほどの山盛りで、八百屋でも見られないほどの見事さでした。

そして翌日の初午大祭では、美しく並べ終わった姿が。面白かったのは、京野菜が雛段に並べられて展示会のようになっていたところです。なかなかこうして京野菜を見る機会はないですね。それにしても、ものすごい量の奉納の品々。鳥居の奉納など、伏見稲荷大社自身が商売がうまいという意見もあるほどですが、今も昔も変わらぬ信仰なのでしょう。

今も昔も変わらぬといえば、お山めぐりがあります。稲荷の本質は一周2時間のお山めぐりにあるといっても過言ではありませんので、是非一度はお時間を取って挑戦して頂くと、いつもとは違うお稲荷さんに出会えることでしょう。およそ千年前に書かれた枕草紙には、初午の日に清少納言がお山めぐりに挑戦した話が載っています。その段名は「うらやましげなるもの」(152段)。

清少納言は、二月初午の日の暁に家を出て、(彼女なりに)急ぎながら山を登って行ったのですが、普段歩きなれていないせいか、坂の半分くらいまで到着したのがようやく巳の刻、午前10時ころでした。日の出から換算すると3-4時間はかかっている計算です。彼女はだんだんと暑ささえ感じるようになって、やりきれない気持ちになり「もっと登りやすい気候の日もあるのに、どうしてこんな暑い日に参詣してしまったのだろう」と愚痴をこぼしながら涙して、ぐったりしていました。

そんな彼女の前を40歳過ぎくらいの女が通りかかります。女は知り合いと出くわしたらしく、こう話していきました。「私は今日は七度詣でをするんです。もう三度詣でて来ましたので、あと四度くらいはなんでもないですね。未の刻(午後2時ころ)には下山できそうです。」 そして女はそのまま、さっさと行ってしまいました。それを見ていた清少納言・・・。「この時は、この女の身に今すぐなりたいものだと思った」と、枕草子では書かれています。

今でもお山めぐりをすれば、毎日のように登っている地元の方とすれ違うこともありますが、ハアハアと息も乱れながら登っていく人をしり目にスタスタと先へ消えていきます。清少納言と同じ「うらやましげ」な思いを感じる方は今も昔も大勢いることでしょう。お山めぐりは三つ辻を過ぎた辺りから急激にきつくなっていきますので、十分に心づもりをして行かれるとよいでしょう。四つ辻では、ご褒美の絶景も待っていますよ。

初午大祭は、かつてほどの賑わいではないようですが、それでも多くの人が訪れます。初午に合わせて拝殿の柱には「青山飾り」が付けられて、稲荷山の神木である杉と椎の木を合わせて作られています。商売繁盛の神様として1300年以上の歴史を持つ伏見稲荷。この先も長く信仰を集めていくのでしょう。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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