鳴釜神事 吉祥院天満宮・花山稲荷神社


2月3日の節分祭に吉祥院天満宮で、2月10日の初午祭には花山稲荷神社で、鳴釜神事(釜鳴り神事・鳴動神事)が行われました。釜が鳴りだす不思議な神事です。

今年もいろいろと見てきた節分の日でしたが、廬山寺と滝尾神社との間に、吉祥院天満宮に足を運んでいました。こちらの節分祭では、鳴釜(なるかま)神事が行われます。鳴釜神事は、釜鳴り神事や鳴動(めいどう)神事とも呼ばれ、樽のような甑(こしき)型の釜が熱っせられると「ボォー」という音が突如鳴りだして、それによって神の託宣を聞くという神事です。その不思議な音は、初めて聞くと驚くことでしょう。この神事の発祥は岡山県の吉備津神社です。吉備津神社と言えば鬼退治伝説で知られますが、鳴釜神事もまさにその鬼退治伝説に由来しています。少しその伝説を吉備津神社ホームページから引用してみます。

かつて吉備国には、百済国から空を飛んでやってきた温羅(うら)という名の鬼がいました。温羅は、身の丈4mという屈強な体格と怪力持ち、性格も凶悪そのもの。やがて川のそばに城を築いた温羅は、そこから都に向かう船や婦女子を襲い、人々を苦しめていました。そこで遣わされたのが、吉備津彦命(きびつひこのみこと、又の名は彦五十狭芹彦命:ひこいさせりびこのみこと)。吉備津彦が石の盾で陣を築くと、温羅も待ち構えて相対し、戦いが始まりました。吉備津彦が温羅に向かって矢を放てば、温羅もすかさず矢を放ち、ちょうど二人の間でガチンとぶつかって、それぞれ落ちていきました。これが幾度も繰り返されて、なかなか勝負が付きません。そこで吉備津彦は考えます。そうだ!二本の矢を同時に射るのだ。こうして放たれた二本の矢。温羅はそうとも知らず、これまで通り一本だけ矢を射ました。

バチン!と一本の矢はぶつかって落ちましたが、吉備津彦が放ったもう一本の矢は、温羅の左目にグサリと刺さり、その目からはたくさんの血が流れ、川を真っ赤に染めました。温羅がたまらず雉に姿を変えて飛び去ると、吉備津彦は鷹に姿を変えて追いかけました。追いつかれそうになった温羅は、今度は鯉に姿を変えて血に染まった川に姿を隠します。吉備津彦はすぐさま鵜に姿を変えて追いかけました。逃げても逃げても追いかけてくる吉備津彦に、ついに温羅は観念し、捕まった温羅は吉備津彦に首をはねられてしまいました。

ここからが重要です。はねられた温羅の首は、串に刺されて立てられていました。しかしその首は「うお~ん!うお~ん!」と何年にもわたって吠え続け、人々を悩ませたのです。そこで吉備津彦は、吉備津神社のお釜殿(おかまでん)の場所に温羅の首を埋めました。しかし、温羅の首はその後も13年にわたって唸り続けました。そんなある時、吉備津彦の夢の中に温羅が現れて、こう告げます。「私の妻、阿曽姫にお釜殿の火を炊かせよ。釜は、幸福が訪れるならば豊かに鳴り響き、災いが訪れるならば荒々しく鳴るだろう。」と。それからお釜殿では、毎年その年がよい年になるのかどうかを占うことになったということです。なお、吉備津彦は281歳の長寿を全うして、吉備の中山のふもとに祀られ、現在の吉備津神社のご祭神となっています。

以上が、鳴釜神事の由緒で、現在でも吉備津神社では神のお告げを知る手段として鳴釜神事が行われています。京都の吉祥院天満宮と花山稲荷神社の鳴釜神事も、新年に当たって釜の鳴り具合からその年の吉凶を占う意味合いがあると思われます。思われますと書いたのは、吉祥院天満宮では釜は鳴らすのですが、吉凶がどうなのかは特に説明が無いようだからです。花山稲荷神社では、その年の吉凶を占い、参列者に今年一年の見通しが告げられます。なお、京都では西院春日神社でも、大晦日の夜に鳴釜神事が行われています。

まず、吉祥院天満宮の節分祭での鳴釜神事です。参列者は氏子代表者2名と、拝殿の外に数名といった様子で少なく、神職の方が慌ただしく準備をされていました。やがてなんの前触れもなく釜が「ボォー」と鳴りだします。音は時に強弱をつけて鳴り、かなり大きな音量となりました。実は、私も鳴釜神事を見るのが初めてで、素直に驚きました。神事後に、まだ鳴っている最中の動画も撮ってありますので、ご覧ください。低い音のため聞き取りにくいかもしれませんが、イヤホンを付けて聞くと鳴り響く音が分かると思います。吉祥院天満宮では、引き続いて火焚きも行われます。この時には地域の方が集まって来て、勇壮な炎が上がっていきました。

山科にある花山稲荷神社でも、初午祭に合わせて釜鳴り神事が行われています。こちらは神仏混淆の儀式を執り行った後、神前にて釜が鳴らされました。吉祥院天満宮と違ってなかなか鳴らず、10分程は待ったでしょうか。もう今年は鳴らないのか・・・、鳴らないということはかなりまずい一年になるのか、と思った頃、突如釜が大きく鳴りだしました。

よかったよかった、一安心。釜の音は地域の方によると、昨年よりも大きく力強く鳴っていたそうです。そしてしばらく唸るような音を境内に響かせた後、神職の方が触れてもいないのに、静かに音が小さくなって、鳴り止んで行きました。これがなんとも摩訶不思議。まさに「神のなせる技」とでも言うべきかもしれません。ただ、やはり科学的な視点で見ていきたいところです。他のホームページやWikipediaで調べてみたところ、まず釜の中にはお米が入っています。そして沸騰するお湯とお米との間に温度差が生じ、「熱音響」という原理によって「ボォー」という音が発生しているそうです。具体的には「100ヘルツぐらいの低い周波数の振動が高い音圧を伴って1mmぐらいの穴を通ると、この現象が起きる」そうです。

理論的には上記のとおりですが、実際にはその時々の諸条件によってなかなか鳴らすのが難しいそうで、毎回鳴る様子が異なることから、神の信託を伝えるものとして広まっていったのでしょう。気になる今年の占い。花山稲荷神社の神職の方によると、初めはゴタゴタしますが、やがてよい勢いで一年が過ぎて行くそうで、鳴り終わりも穏やかであったことから健やかに過ごせるだろうとのことでした。なんとも不思議な鳴釜神事。京都でも見られる場所は限られていますが、機会がありましたら皆様の目と耳で不思議さを感じてみて下さい。


ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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