早春の桂離宮 月を愛でる庭 その1


仙洞御所・修学院離宮と書いてきましたが、最後は桂離宮をご紹介します。3つの中では最も人気を集める場所です。桂離宮は2回に分けてお届けします。

さて、桂離宮は仙洞御所・修学院離宮とは違う日に訪れています。桂離宮は、後陽成天皇の弟である智仁親王が造営した八条宮家の別荘で、桂川の西岸、八条通の桂大橋の北西にあります。桂川から水を引き、築山を設けて人工的に自然景観が作り出され、その中に書院や茶室が点在し、それぞれ四季の月見に適した配置が計算されています。桂離宮へは公共交通機関を使うならば、阪急桂駅から徒歩20分ですが、北側に駐車場も充実していますので、自家用車でも行くことが可能です。参観はお庭のみで建物内に上がることは出来ない点もご注意下さい。歩く距離はおよそ1kmで、所要1時間です。

桂は、平安時代から観月の名所として貴族たちに愛でられた場所です。「桂」の地名は、「月の桂」の故事から来ているとする説があります。月には大きな桂の木があり、それを仙人が斧で伐っている姿が月面に見えるという内容です。これは目には見えるけれども、手に取ることはできないことのたとえでもありますが、平安京以前にこの地に勢力を広げた渡来人の秦氏が、故事にちなんで「桂」と名付けたともいわれています。平安時代には藤原道長の別荘(桂家)が築かれ、源氏物語にも光源氏の別荘として「桂殿」が登場していることからも、桂川に映る月の美しさは古来から有名であったことが偲ばれます。

桂の地は近衛家や細川家の所領を経て、豊臣秀吉に渡ります。秀吉には子がなかったため、智仁親王が秀吉の猶子(ゆうし:親子関係を結ぶこと)となるのですが、程なく後の秀頼が生まれたため解消され、その際に桂の地が与えられました。こうして智仁親王は桂の地に山荘を営み、子の智忠親王の代まで約50年にわたって造営は続けられました。

桂離宮は、源氏物語の桂殿をモチーフにしたともいわれ、現在の形に整ったのは後水尾上皇の御幸に際して造営された1663年のことです。先に書いたように桂離宮は月見のための離宮で、四季の月見に適した四つの茶室、中秋の名月を眺めるのに最適な書院の月見台など、科学的に月の経路を計算されて作られているのです。

参観は、まず土橋を渡ってまっすぐ進み、御幸門を出て、表門の手前まで行きます。表門から御幸門までは輿に乗って入れますが、御幸門をくぐる前に、輿を置くための石が据えられています(石の用途は諸説あり)。御幸門は太い皮付き丸太が使われているのが特徴で、木の種類はアベマキといいます。この木はコルクにも使われるそうで、参観でも実際に木に触れてその柔らかさを感じることができます。

御幸門から戻る直線の道は御幸道と呼ばれ、秋には紅葉が美しい道です。冬は空がきれいに見える明るい道となります。御幸道には小石が敷き詰められていますが、滑らかで足にかかることがありません。桂離宮がかつて大修理をして石をはがした際は、この滑らかさを損なわないよう石の一枚一枚に番号をつけ、完全に元の通りに直したそうです。

御幸道を曲がり、離宮の東側の飛び石を進むと松琴亭(しょうきんてい)の外腰掛(待合)が現れます。桂離宮は飛び石や橋も多いのが特徴で、飛び石や橋からの撮影はご遠慮くださいとのアナウンスもあります。さて、外腰掛の前には蘇鉄山が広がります。冬の間はコモが巻かれていて独特な景観を作り出しています。この蘇鉄は薩摩藩から献上されたもので、江戸時代初めの庭の流行りでもありました(西本願寺の虎渓の庭など)。蘇鉄も建物を隠す目隠しの役割で据えられています。

外腰掛の隣には、二重枡形手水鉢があります。松琴亭は冬の月見を意図した茶室ですが、その待合の手水鉢は晩秋に収穫される米などを計る枡となっているのです。また、桂離宮には真・行・草の三つの敷石があります。格式が高く整ったのが「真」、その対極に位置するのが破格の「草」、両者の中間に位置するのが「行」で、元は書道の書体を表す言葉ですが、日本人の美意識を表す言葉としても用いられ、ここでは自然石と切り石との組み合わせで表現されます。

外腰掛の前にあるのが「行の敷石」。茶室へと向かう緊張感を、長さ2mを超える長い切り石で表し、それを解きほぐそうとする柔らかさのある自然石とが組み合わされたデザインは見事です。桂離宮はこうした細部までこだわって作られているのが特徴です。

外腰掛から先に進むと、池の景色に変わり、池に突きだした出島形の州浜が現れます。州浜の先には灯籠が立ち、その先の風景に石橋が架かり、さらにその奥には松琴亭が風景に溶け込んでいます。石橋は天の橋立を表しているのだそうです。桂離宮の中でも美しい風景の場所です。松琴亭にはもう一つの石橋(白川橋)を渡って向かいます。

松琴亭(しょうきんてい)は、冬に適した茶室で、室内には暖を取るための石炉が設けられています。冬の月は、明け方に西に下がっていく「有明の月」を望んでいたそう。寒い冬にあえて明け方の月を楽しむように造られているとは、風流ですね。また、松琴亭からの池の眺めも美しく、この場所では夜半まで宴を催し、朝には月を眺めるとは、想像しただけでなんと贅沢なことでしょうか。・・・さて、桂離宮のご紹介は次回に続きます。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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