早春の桂離宮 月を愛でる庭 その2


今回は桂離宮の続きです。四季の月を愛でるために計算された作りの見事さと、その美しい風景をお楽しみ下さい。

松琴亭から先に進むと土橋が現れ、大中島に渡ります。島は小高くなっており、その頂上に春に使われる茶室・賞花亭(しょうかてい)があります。島にはツツジが多く植えられているため、花をめでる(賞賛する)意味で「賞花」と名付けられいます。高台にあるため眺望に優れ、愛宕山も綺麗に見えます。かつては周りの木々が低く、嵐山や比叡山も望めたのだそう。賞花亭の前にある棗形の手水鉢は、春の茶摘みにちなんで据えられています。

賞花亭から山を下りた場所からは、池越しの書院が美しく見えます。参観コースの中ではパンフレットに載っているようなアングルからは撮れないのですが、ここから望む書院の風景はコースの中で最も綺麗だと思います(前回のブログのトップ写真です)。さらに先へ進むと園林堂(おんりんどう)が現れます。「園林堂」の額は、後水尾上皇の宸筆で、堂中には八条家代々の位牌が安置されていたそうです。

園林堂から笑意軒(しょういけん)へと向かう途中には、梅が咲いていました。冬は彩りが少ないですが、紅梅が春の雰囲気を伝えてくれます。笑意軒は、田植えの時期から稲刈りまで主に夏に使われた茶室です。笑意軒の前の敷石が「草の敷石」。自然石のみで作られた柔らかい印象を与える敷石です。笑意軒の手水鉢は、軌道の低い夏の月を映す趣向となっており、手水鉢に柄杓を差し込んで月をすくうように水を汲めるのだそう。その名も「浮き月」と名付けられた手水鉢が、蒸し暑い京都の夏の夜に涼を与えるのです。

さて、参観コースは笑意軒から来た道を少し戻って、書院へと向かいます。書院は二条城と同じような雁行形をしており、どの部屋からも池庭を楽しむことができるのがポイントです。また、床が2m程も高く上げてあり、これは氾濫を繰り返した桂川の洪水に備える意味もあるそう。実際、この付近の水害頻度は高く、現在も辺りの民家は土台が高くなっていたり、水門があったりとする地域です。

また、書院が高床なのは、月見の際に目の高さとしてちょうどよいからでもあります。書院には月見台もあり、驚くのはその設計。ちょうど「中秋の名月」の観賞に最適な方角に開け、屋根がなく、前方の池には中空に浮かぶ月が見事に映り込むように計算されているのです。対岸の築山はあえて少し低くしてあり、中秋の名月を一刻でも早く眺められるようにし、池は手前まで切り込んで、少しでも長く池に映る月を楽しもうとさえしているのです。いやはや、一度でよいので、この月見台からの中秋の名月を眺めてみたいものですね。

書院を後にして、最後に出会う茶室が月波楼(げっぱろう)です。月波楼は池に面して建ち、秋に使われた茶室です。この茶室からは、昇っていく月と池に映る月の両方を楽しめるように作られています。また、池の向こうには松琴亭が風景になじんで美しくに見え、茶室に座って目線を低くして眺めれば、まるで屋形船に乗っているかのような景色となります。心憎いまでの演出です。

また、月波楼は秋の茶室ということで、西向きの窓からは紅葉山を額縁のように望むことができます。襖紙にも紅葉の模様をあしらって、秋の風情を満喫できるように作られています。機会があれば、是非秋に訪れてみたい場所ですね。月波楼の先には、御輿寄(おこしよせ)があります。その前の敷石が「真の敷石」です。様々な形の切り石を組み合わせた幾何学模様の敷石で、まさに真・行・草、それぞれになるほどと思わされる意匠となっています。

最後の参観ポイントが、衝立松(ついたてまつ)。御幸道から進んできた客人に、すぐにはお庭を見せないように、あえて池に松が植えられて景色を遮っています。単に行き止まりや、生垣にするのではなく、一本の松で遮るというのも面白い発想です。さて、参観はこれで一周。お庭だけとはいえ、細やかな計算のもとに築かれた、桂離宮の美の一端を覗い知ることができます。仙洞御所・修学院離宮・桂離宮とも、その魅力はとても私の拙い文章力ではとても表現できませんが、その美は日本人全ての共有財産ではないでしょうか。是非、多くの方にご覧になって頂ければと思います。

おまけです。現在、離宮東側の笹垣、通称「桂垣」を新しく作りなおしていて、竹を編み込む場面に遭遇しました。この春には完成するそうです。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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