この夏は過去最高の猛暑になるのか?

今年は過去最高の猛暑になるのか?
先日、某テレビ局で「今年の夏は過去最高の猛暑?」というタイトルで放送がありました。果たして本当にそうなのか、検証してみたいと思います。

祇園白川私がこの手のネタを書くときは、そのことに大いに疑問を持っている時です。すなわち、予報士の一人としては「決して過去の最高の猛暑となるとは言い切れない」と考えています。某テレビ局の報道において「今年の夏は過去最高の猛暑になるかも」と伝えていた根拠は、「NASAが2013年の世界の平均気温が、2010年の過去最高記録を破る可能性が高い」といっているからだという帰結でした。つまり「世界の平均気温が過去最高になるとNASAが言っているから、日本の2013年の真夏も過去最高の猛暑になるかも」という論理です。

祇園白川実際に今年が猛暑になるかの解説を始める前に、はっきり申し上げて、私は気象予報士として、上記の論点はどうしても納得がいきませんでした。あくまでNASAがいっているのは、「世界の(年間)平均気温」の話であり、「日本の真夏が熱くなる」かは全く別の話です。平均気温が上がるには、何も夏が猛暑でなくとも、冬や春や秋が記録的に暖かくてもよいわけです。さらに、日本以外の世界各国で気温が高くても「世界の」平均気温は高くなります。つまり、世界平均の話と、日本の個別の季節の話を一緒の流れで考えるのは、論理として誤っているということです。

円山公園NASAは世界的な話をしていますが、日本の気象庁は2013年の日本の夏をどう予想しているか?暖候期予報と、直近の3か月予報(5月~7月)を見てみましょう。まず気象庁では「夏」の期間は「6月~8月」と定義しています。近畿地方では、6月の気温は「高い」確率が40%、「平年並」と「低い」の確率はともに30%です。7月の気温は「平年並」と「高い」がともに40%と同じ確率で「低い」となる確率は20%しかありません。実はこの確率配分は「北海道から九州までの気象台から同じ値」で発表されていますので、ほぼ日本全国この確率配分で夏を語れます。

御池大橋からの鴨川6月について最も可能性が高いのは「高い」の40%ですが、「平年並」と「低い」の確率も30%づつあり、正直「どこに転んでもおかしくない」と言えるでしょう。「あえていうなら高い」という程度のニュアンスしかありません。次に、7月。こちらは「低い」可能性は20%しかありませんので、確率は低いです。一方「平年並」と「高い」はともに40%で、こちらも「高いか平年並か、どちらもありえる」という解釈になります。また、2月に発表されている暖候期予報では、夏(6月~8月)の気温は、「平年並」と「高い」がともに40%で、同じく「高いか平年並か、どちらもありえる」という解釈になります。また、夏の気候に影響を与えるエルニーニョやラニーニャも発生しておらず、秋にかけても発生しない予想となっています。西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海水温も、基準値で推移する見込み。上記を踏まえると、恐らく8月も極端な高温予想は出にくいと思われます。

三条大橋からの鴨川以上、気象台の見解をまとめると「今年の夏は、平年並か平年より高いか、どちらもありえる」という解釈になります。さて、それにも関わらず「世界の平均気温が過去最高になるとNASAが言っているから、日本の2013年の真夏も過去最高の猛暑になるかも」と述べるのは、気象庁の見解を無視していることにもなります。単に「猛暑となる」だけでしたら、平年より「高い」可能性が示唆されていますので、「ありえる」といいきれますが、「過去最高の猛暑となる」というのは、気象庁が「平年並もある」といっているので、明らかにいいすぎです。もし仮に「この夏が過去最高の猛暑」になっても、現時点でそれを予想したと言い切る予報士がいれば、それは根拠が無く「偶然当たった」にすぎません。明確な根拠が示せなければ、「わからない」というのが誠実な予報ではないでしょうか。また、「西暦の末尾が「3」の年は冷夏」という予報士の方もおられますが、これも論拠が不十分です。1983年、1993年、2003年が冷夏だったのは事実ですが、以前にこのブログでも書いた「特異日」と同じで、統計手法に則っているかのような「思いこみ」にすぎません。その論拠では2023年も、2033年も、2043年も・・・冷夏といえてしまいます。さらに、11年おきの太陽の黒点活動と気温との関係も科学的には証明されていません。

高野川これは私自身への戒めでもありますが、明日・明後日の短期予報にせよ、数か月先の長期予報にせよ、社会的な影響が大きい気象予報士は、明確な根拠のない話をすべきではありません。私が気象会社に勤めた1年目に、予報部のリーダーと仕事をする機会がありましたが、そのことで強く叱られたことを思い出します。また、藤原咲平の「予報官の心がけ」が頭によぎりましたので、下記に記載します。

藤原咲平の予報官の心がけ

藤原咲平(さくへい)は、戦前に活躍した予報官で「藤原の効果」で知られています。以下、原点から抜粋ではないのですが、私が学生時に読み、気象会社勤務時代も守っていた「心がけ」を紹介しておきます。1933年(昭和8年)に書かれた以下の12点。予報は強いプレッシャーや限られた時間との戦いでもある。その中でいかに正しい判断をするか、約80年を経ても納得させられることが多い。予報士を目指されてる方にも、是非一読いただきたい「心がけ」です。

  1. 学問の進歩を取り入れ、時世におくれないこと。
  2. 予報の不中の原因を探求すること。他人の予報も注意して、他山の石とすること。
  3. 判断力に影響するから、身体を健全にすること。
  4. 精神的の心配事も判断に影響するから、精神を健全にすること。
  5. 予報期間中は、他事にたずさわらぬこと。遊戯にこってはいけない。研究は当番以外の時に行うこと。
  6. 睡眠不足の時は、よい予報は出せない。
  7. 酒を飲んでいる間はかえって頭が明晰になったように感ずるが、それは実は妄想である。
  8. 自分の前に出した予報に引きずられないこと。
  9. 自分の力の範囲を確認し、その埒外に出ないこと。
  10. 世間の気持ちを斟酌すべきだが、迎合してはならない。
  11. 非常にまれな場合をねらって、予報に奇跡を願ってはならない。
  12. 自分の発見した法則、前兆を買いかぶるな。

 (倉嶋厚『暮らしの気象学』草思社、1984より)

下鴨神社 糺の森今回の「過去最高の猛暑」の件は、「世間の気持ちを斟酌すべきだが、迎合してはならない。」という部分に当てはまるのではないでしょうか。メディアは「過去最高」とか「記録的」といった、強い言葉の報道を好みがちです。NASAという誰もが知っているところが発信すれば、話題にもなるでしょう。しかし、気象予報士は常に客観的に物事を判断しなければいけません。世間が望むところと、気象予測は切り離して考えるべきでしょう。

円山公園現在「お天気お姉さん」というドラマが放送中で、私も見ていますが、武井咲さんが演じている気象予報士・安倍春子の行動や思考について、同じ予報士として共感できる部分がいろいろとあります。まず、彼女は決して適当なことは口にしません。わからないことは「わかりません」と言い切ります。前回の放送では、20年前の雨で凍死した件で、犯人から「20年前の予報士はあの雨を予想できなかったじゃないか!」といわれて、口をつぐみました。あの場面で反論も肯定もしないのは、私も同感です。安倍春子に「今年の夏は過去最高の猛暑になるのでしょうか?」と聞けば、きっと彼女はこういうでしょう。「平年並か、平年より高くなる可能性が最も高いですが、過去最高の猛暑になるとはいいきれません」と。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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