六地蔵巡りと地蔵菩薩

山科地蔵 徳林庵
8月22日・23日に六地蔵巡りが行われました。

六地蔵の幡まず、台風の話。台風15号が北上しています。今のところの最新予測値では、九州に上陸後、西日本を横断するコース(上陸後、温帯低気圧に変わる)。予報円がまだ大きいですが、これはコースの誤差というよりも「速度」の誤差の方が大きいので、今後接近が早まる(あるいは遅くなる)ことも考えられます。いずれにしても、西日本では週末は直接の影響を受けそうで、やや先行して秋雨前線が活発化して大雨が始まる可能性もあります。最新の予測値に十分にご注意下さい。

伏見地蔵 大善寺さて、京都の夏に欠かせないならわしの一つが、六地蔵巡りでしょう。伏見(大善寺)、鳥羽(浄禅寺)、桂(地蔵寺)、常盤(源光寺)、鞍馬口(上善寺)、山科(徳林庵)の、6か所の京都の出入口にまつられた6体の地蔵菩薩を巡拝し、家内安全、無病息災、家運繁栄などを祈願する行事です。各寺では、「お幡(はた)」と呼ばれる色違いの札を授かります。旗の色は如来を色で表した5色で、その全てを集めて家に持ち帰り、護符として玄関や軒先に一年吊るすのです。色は大善寺と源光寺が同じ白色ですが、源光寺はデザイン他と異なっています。今年は「らくたび」さんの散策で、6か所すべてを同じ日に巡ってきました。

鞍馬口(深泥池)地蔵 上善寺地蔵菩薩は、釈迦如来の入滅後、56億7千万年後に弥勒菩薩が如来となって現れるまで、人々を救う仏が現世に不在となるため、その間の衆生救済を釈迦如来より託された菩薩様です。仏の世界にも位があり、悟りを開いた仏は如来、まだ修行中の仏が菩薩と呼ばれます。地蔵菩薩は本来は如来になる資格があるにもかかわらず「一切の人びとの苦しみを救わない限り、如来の世界には往かない」と決め、自らの足で人間界のみならず、人びとがさまよう六つの迷いの世界(六道)を巡って、様々な苦しみを代わりに引き受けながら救って下さるとされました。

常盤地蔵 源光寺このように地蔵菩薩は、六道の一つである地獄にさえも訪れて救うとされるため、庶民に寄り添う仏様として、観音菩薩と並んで絶大な人気を集めてきたのです。六道に対応した六地蔵は、一般的には6体まとめて安置されるのが一般的です。童話の「笠地蔵」に登場するお地蔵さんの数は、話によって差がありますが、基本的に六地蔵ですので6体が正しいといえるでしょう。

常盤地蔵 源光寺六地蔵巡りの六地蔵も、もとは大善寺に6体とも安置されていました。地蔵を刻んだのは、あの世とこの世とを自由に行き来できたという平安時代の官僚、小野篁(たかむら)です。篁は、48歳のときに熱病に浮かされ、仮死状態で地獄へと行きました。そこで苦しむ人びとを一人一人救っている僧に出会うのです。僧は小野篁に「私は地蔵菩薩だ。できれば全員を救ってやりたいが、縁がないとそれも難しい。」といい、篁が現世に戻って私(僧)の姿を彫り、多くの人びとが地蔵菩薩と縁を結べるようにしてほしいと告げていくのです。

桂地蔵 地蔵寺こうして、現世に戻ってきた小野篁は、木幡山の桜の大木から6体の地蔵菩薩を彫りあげ、大善寺にまつりました。彫るに際して、1刀入れるごとに3度礼拝するという、最上級の作法を行ったと伝わっています。こうして出来上がった六地蔵ですが、平安時代の末期、都で疫病が流行った際に、後白河天皇の命令で平清盛によって、現在のように京都の出入口の街道の入り口に分かれて安置されました。

鳥羽地蔵 浄禅寺これは、当時は疫病は「外」から入って来ると考えられていたためです(この話は祇園祭の時にも書きました)。現在でも、新型インフルエンザの脅威が海外から聞こえてくることに似ていますね。地蔵は境界を守る道祖神とも結びついて、結界を守る存在として信仰されました。京都では街々にお地蔵さんがまつられているほどに、なじみ深い菩薩様ですが、地蔵菩薩への信仰自体は、平安時代に入ってから深まったものでした。平安時代の嘉祥年間には、天皇など宮中の人びとによって信仰を集め、それが庶民にも広まって来るのは、平安時代末期から鎌倉時代のことです。

古い幡は寺に納める鎌倉、室町時代には、多数の地蔵菩薩像が作られて各地に安置され、その中から、現在に繋がる六地蔵巡りの信仰も生まれて行ったと考えられています。六地蔵巡りの道のりは10里といいますので、約40㎞にもおよびます。交通手段が発達した今でも、全てを回るのは「決意」が必要となる距離を歩いて巡るのは、篤い信仰心が無ければできなかったことでしょう(あるいは小旅行もかねていたのかもしれませんが)。

人びとで賑わう六地蔵巡り各寺の地蔵は、2mを超えるものも多く、もし本当に1本の木から彫られたとすれば、相当の大木であったはずです。ただ、大善寺の像は平安時代の作として国の重要文化財に指定されているものの、残りの5体はそうではなく、恐らく長い年月の間に失われて、後世に作りなおされたのではないでしょうか。いずれにしても、現代も六地蔵巡りは多くの人びとで賑わっていることは変わりません。機会がありましたら、訪れ方の作戦を練って、各お寺を参拝してみて下さい。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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