小山郷六斎念仏踊り 上善寺 2013年

小山郷六斎念仏踊り
六地蔵巡りが行われた8月22日の夜、上善寺では小山郷六斎念仏が奉納されました。

小山郷六斎念仏踊り京都の8月は各地で六斎念仏踊りが奉納されます。いずれも「京都の六斎念仏」として、国の重要無形民俗文化財に指定されていて、民俗学的にも価値のあるものです。京都といえども、国の重要無形民俗文化財に指定されている行事は多くはなく、他に比較的見に行きやすいものでは、祇園祭の山鉾行事、壬生狂言、嵯峨大念仏狂言、やすらい花のあたりに限られます。

上善寺六斎念仏とは、8日・14日・15日・23日・29日・30日の六日を、悪鬼が出て人の命を奪う不吉な日であると考えて、人びとが民家などに集まって念仏を唱えた風習に始まります。主に京都近郊農村の人びとによって行われていました。やがて江戸時代になると、自分たちの村中を念仏を唱えて回るだけでなく、洛中にも出かけて、財力ある商家の店先で棚経を唱えて布施を頂くなどしました。

上善寺 鞍馬口地蔵江戸時代の初めまでは純粋な念仏のみであったそうですが、江戸中期になると、当時都で流行していた歌舞音曲を取り入れたり、獅子舞や祇園囃子、壬生狂言の土蜘蛛など、各芸能の面白いところを取りこんで、宗教色の強いものから芸能的なものへと変化していきました。一方で、本来の趣旨は「念仏」ですので、芸能化することを嫌う一派も現れました。当時は、六斎念仏を始めるに当たって、管轄の寺院より免許を受ける決まりがあり、芸能系は空也堂、保守的な念仏系は主に干菜(ほしな)寺から免許を受けていました(空也堂系の念仏六斎もある)。

小山郷六斎念仏踊りこのように、京都近郊は同じ六斎念仏といっても、様相の異なる2種類が存在するため、民俗学的にも価値が高いとされ、国の重要無形民俗に指定されているのです。現在の京都に残っているのは、ほとんどが「芸能六斎」です。唯一残る干菜系の念仏六斎は、五山の送り火の船形を管理する西賀茂の西方寺で、送り火が消えた8月16日の21時頃から行われています。また、六波羅蜜寺で12月後半に行われる踊躍念仏も、念仏六斎に属するもののようです。

小山郷六斎念仏踊り今でも京都各地で行われている六斎念仏踊りは、地元の方々によって維持継承されています。そのため、地元では高い人気を誇り、六斎念仏が行われる時間帯になると、境内は大勢の人で賑わいます。演目は、各地で共通した名前のものが多いですが、その中身は結構異なっていますので、見比べてみるのも面白いでしょう。

小山郷六斎念仏踊り 猿廻しさて、前置きが長くなりましたが、小山郷六斎念仏踊りは、もともと都近郊の農家であった小山郷の六斎念仏で、盂蘭盆会供養として、上善寺と檀家の各家々に念仏踊りを奉納していました。実は、各家々の前で奉納する風習は失われていましたが、今年から復活をさせたそう。現在も地元の方の熱意によって伝統が支えられています。

小山郷六斎念仏踊り六斎念仏の演目で私が好きなのは「四つ太鼓」です。初めて六斎念仏を教わる人が習う演目で、台枠に太鼓を4つならべ、一人づつ曲打ちを行って行くのが基本。演者が交代するごとにテンポが速くなっていき、ゆっくりだったものが、最後はとてつもなく速くなりますので、その軽快さが面白いです。場所によっては太鼓を6つに増やしたり、二人で同時に打ったり、打ち方も様々。時折、小学校低学年の小さな子が登場して叩いてくれることもあります。

小山郷六斎念仏踊り 祇園囃子祇園囃子もよく見る演目です。祇園祭でおなじみの旋律ですが、本物とは少し節が違っている部分があり雰囲気が祇園囃子という感じ。太鼓も軽快です。面白いのは、途中で仮装の男女が登場しておどけて回ること。演奏の最中に、突如面白い動きのお坊さんや娘さんが現れて笑わせてくれました。

小山郷六斎念仏踊り 獅子と土蜘蛛最後の演目は獅子と土蜘蛛です。小山郷六斎念仏では、獅子が善良で土蜘蛛が悪い方として演じられ、土蜘蛛の糸によって弱らされた獅子が仏様の加護で力を取り戻すという場面を表しているそうです。各地で演じられる人気の演目です。獅子は2人がかりで演じますが、碁盤の上で逆立ちをするのが見せ場の一つでした。しかし、小山郷六斎念仏で獅子を演じられていた方が、春に交通事故で不慮の死を遂げてしまいました。そこから別の方が急きょ獅子の練習をして、この日の演目に挑まれていました。

小山郷六斎念仏踊り 逆立ちを成功させた獅子事前の話では、今年は危険なので獅子の逆立ちはやらないとのことでしたが、本番になって挑戦することになりました。碁盤も2段重ねで足場は不安定です。そこに一人が立ち、もう一人が逆立ちをするという非常に危ない技。例えて言うならば「布団シーツを着て、周りが見えない中で、碁盤の上で逆立ちをするのと同じ」だそうで、想像しただけ難しい技です。今回は亡くなった方のかわりに小山郷六斎念仏の会長さんが演じられたそうです。

小山郷六斎念仏踊り最初の挑戦では上手くいかずに失敗。会場の一部からは「無理や!」との厳しい声も聞こえてきましたが、2度目の挑戦で見事に成功!!この日一番の拍手が送られていました。難しい技を本番で成功させた会長の男気に、私も胸が熱くなります。その後の、獅子が喜びまわるしぐさには、様々な思いが込められていたように思いました。かつて、人の命がもっとはかなかった頃も、このような悲しみを乗り越えて、演じ継がれてきたのかもしれませんね。

小山郷六斎念仏 後継者募集中こうして、盛況のうちに終わった小山郷六斎念仏。ただ、保存会では後継者不足に悩んでおり、随時入会者を募集されています。烏丸鞍馬口を東へ入り、最初の十字路を南に曲がったところにある丸十食堂で練習をされているそう。六斎念仏が終わってから数日後に前を通ると、地域の方への御礼と、入会者募集の掲示が出ていました。興味のある方は問い合わせてみて下さい。この先も長く、京都の伝統が受け継がれていってほしいと願ってやみません。



ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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