昨日は、入口の宜秋門から承明門までを書きました。今回はその続きです。紫宸殿を囲む朱色の回廊を回り込んで日華門から入ると、堂々たる紫宸殿が目に入ってきます。紫宸殿は即位式や節会などの儀式が執り行われる、御所の建物の中でも最も格式が高い正殿で、初めて訪れる方はその大きさに圧倒されることでしょう。左近の桜、右近の橘もこの時期はまだ青々としています。
注目は、天皇が坐す高御座(たかみくら)と、皇后が坐す御帳台(みちょうだい)。現在見られる高御座と御帳台は、大正天皇の即位式の際に古制に則って作られたものです。高御座は神輿(鳳輦)のような形をした八角形をしており、古代の八角墳などにも繋がるところがありそうです。八角形は、道教では全方位を表し、ひいては全世界・全宇宙の中心に座すという意味があるとも考えられています。一般公開では、紫宸殿には直接が上がれず、八角形であるかもよく分かりませんが、玉座は外から眺めることができます。
紫宸殿を回り込んで奥へと進むと清涼殿が現れます。平安朝においては天皇の日常の生活場所として使われた建物です。そのため床が低く、間仕切りも多いという特徴があります。中央の部屋は、昼御座と書いて「ひのおまし」と呼ばれ、奥には天皇が休息に使われた御帳台があり、その前を狛犬が守っています。
さらにその前には畳が敷かれた玉座が別途設けられていて、こちらは昼御座と書いて「ひのござ」と呼ばれています。以上の使い分けは、京都御所で販売していた解説本を元に書きましたが、宮内庁ホームページだと畳の玉座が「ひのおまし」だと書かれています。どちらが正解なのかはわかりませんが、いずれにしてもややこしいのは間違いありません。
清涼殿を後にして先に進むと、小御所が現れます。小御所の建物は、昭和29年に鴨川から打ち上げられた花火の失火によって焼失後、再建されたものです。歴史上は、幕末の小御所会議でもその名が伝わっていますね。花火での焼失事件については、以前にブログで書いていますので、よければご覧ください。小御所は、東宮の元服などもろもろの儀式に使われ、江戸時代には京都所司代や幕府の使者との対面もこちらで行われました。
小御所には人形で、王朝風雅を伝える場面が再現されています。今回は、東遊(あずまあそび)の舞と、稜王の舞、さらに安摩(あま)の舞が、展示されていました。舞は実際に見ると動きがあるので、こうして動かない人形で動きの一瞬を止めている状態というのも、貴重な機会だと思います。京都の行事では現在も舞楽の奉納は多く、東遊も稜王(蘭稜王)も何度もご紹介してきましたので、ここでは割愛します。
目を引くのは、人の顔をかたどった独特な紙の面をつけた安摩(あま)の舞です。ある者が竜宮から宝玉を盗み出す様を舞いにしたと伝わり、天竺(インド)からの伝来曲とされています。二人で舞う曲で、顔につけている紙の面は、長方形の厚紙に白絹を貼って人の顔を象徴的に描いています。この、人のようで人でないような面容は、インパクトがありますね。御所には若宮御殿(非公開)に、安摩を描いた杉戸絵があるため、今回は展示をされているのでしょう。
小御所の向かいには回遊式庭園の「御池庭」があります。ただ、回遊することはできず、眺めるのみとなります。御池庭は、池に面して州浜も設けられ、御所らしいスケールの大きさを感じるお庭です。四季折々に美しく、建物を見ることが多い京都御所では、貴重な癒しの空間となっているように思います。
御学問所を経て先に進み、少し通路が狭くなった部分を抜けると御常(おつね)御殿に行きます。まず目に入るのは建物よりも「御内庭」のお庭でしょう。特に土橋が美しく、多くの方が写真を撮ろうとされることも、この辺りが混雑する理由の一つだと思います。御常御殿は、御所の中でも最も大きな御殿で、天皇の日常の御座所として用いられました。
もともと天皇の日常生活の場としては清涼殿がありましたが、次第に儀式で用いられることが多くなり、秀吉の行った天正の造営の際に、別棟で建築されるようになりました。明治天皇も東京へ向かう前は、こちらで過ごされています。御常御殿は15部屋あり、実用を重んじた書院造りの手法が多く取り入れられています。一般公開の範囲は基本的にはここまでですが、一番奥では御涼所も覗くことができます。
少し引き返して御常御殿を回り込むと、御三間(おみま)の豪華絢爛な障壁画を眺めることができます。御三間は、七夕や盂蘭盆など内向きの儀式の時に使われた建物で、内々のご対面にも用いられることがあったそうです。それにしても見事な障壁画ですね。
また、最後の御学問所の北側には、塩川文麟の花鳥図の襖も展示されていました。美しい羽根を持つクジャクのつがいや、珍しいオウム、さらには小鳥に至るまで、繊細なタッチで描かれた豪華な襖絵です。こちらも人気を博していました。
さて、御所の拝観は基本的にはこれで終了。あとは清所門の出口から出ることになりますが、途中には様々なおみやげどころもあります。中には、御所の一般公開でしか買うことができないものもあります。鶴屋吉信さんの「御苑の菊」も定番の一つでしょう。皇室の紋である菊をかたどったお饅頭です。ちょうど秋の一般公開は菊の花が見事に咲き誇る時期でもありますので、おみやげによいかもしれませんね。京都御所は次回は4月のはじめに一般公開されます。桜の時期でもあり、秋とは違った華やかさもあります。また機会があればブログに書いてみようと思います。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。