愛宕念仏寺 天狗の宴(さかもり)

愛宕念仏寺 天狗の宴
11月10日に愛宕念仏寺で行われた天狗の宴(さかもり)。今回は、その歴史と実際の行事の様子です。

愛宕念仏寺 天狗の宴前回は、ちびっこ明神太鼓についてご紹介した天狗の宴(さかもり)。太鼓の奉納が終わると、いよいよ天狗の登場です。が、まずはその歴史的な経緯を調べてみました。前提としての愛宕念仏寺の歴史は、前回のブログに書きましたので、合わせてそちらもご覧ください。天狗の宴は、愛宕念仏寺が東山にあった時代から行われていた行事で、本来は正月2日に行われていた牛王(ごおう)加治でした。天狗は「転供」がなまった言葉で、御供物を何人かで順々に回して(転じて)、法前に供えることを示しています。牛王とは「牛王宝印」のことで、一般的には災難除けの護符として、かつては広く授与されていたものです。

愛宕念仏寺 天狗の宴東山に愛宕念仏寺があった時代は、寺の周りには犬神人(いぬじにん)と呼ばれる八坂神社に仕える人びとが住んでいました。犬神人は、神社に仕える一方で、その土地柄、葬送に携わり、あるいは弓弦を作って売っていたため、現在もその地には弓矢町の名が残されています。(なお、犬神人は祇園御霊会の警護を務め、あるいは懸想文売りもかつては犬神人によって行われていたなど、深い話がありますが、ここでは割愛します。)

愛宕念仏寺 天狗の宴かつての愛宕念仏寺は、こうした犬神人の住む土地にあり、その住職も代々、犬神人から選ぶならわしがありました。正月2日の行事では、犬神人らによる酒盛や読経が夜通し行われて、それが終わると牛王杖で建物を叩きながら太鼓や法螺貝を鳴らしつつ悪鬼退散を祈願して、牛王札を貼って(配って)いきました。面白いのは、この牛王札は、愛宕山の「火之要慎(ひのようじん)」の護符であったというのです。愛宕山にあった白雲寺(現在の愛宕神社)を中興した僧・慶俊は、愛宕念仏寺のすぐ隣にあった六道珍皇寺を開創した人物でもあり、古くからその関連性があるのかもしれません(もはやこの先は研究の範囲ですが)。

愛宕念仏寺 天狗の宴一方、現在の愛宕念仏寺の近く、愛宕山にも、古くから天狗信仰がありました。愛宕山には太郎坊という天狗が住んだと伝わります。鞍馬は僧正坊、比良山は次郎坊、それらの天狗を統べるのが太郎坊だと。平安時代の末期、藤原頼長が近衛天皇を呪うために行ったとされるのは、愛宕山の天狗像の目に釘を打つ行為です。さらに、安元3(1177)年に都で起きた大火災(安元の大火)は、愛宕山の天狗(太郎坊)の仕業とされて太郎燃亡と呼ばれました(異説在り)。この火災で平安京の大極殿が一夜のうちに灰となり、以後再建されることはなく、やがて残りの建物も姿を消して、跡地は内野と呼ばれる原野となって行きました。

愛宕念仏寺 天狗の宴現在行われている天狗の宴は、古くからの伝統行事に愛宕山の天狗信仰が結びついたような形態となっています。ちびっこ明神太鼓が終わると、地蔵堂から山伏が天狗の姿で現れて「南無千観(なーむせんかん)」と唱えながら、本堂の回廊に上がります。そして弓矢で四方と鬼門を射て魔を払うと、本堂の周りを再び「南無千観」と唱え、杓(しゃく)を打ち鳴らしながら一周していきます。

愛宕念仏寺 天狗の宴そして天狗は堂内へと入って、僧侶の周りを囲みます。他のサイトの説明を参考にすると、これは天狗が法要の邪魔をしようとしているのだとか。ところが、僧を驚かすつもりが反対に読経の素晴らしさに感動し、参拝者に加持を施すという流れとなっているようです。実際には、千手観音のご真言「オン バサラ ダルマ キリ ソワカ」がご住職より唱えられると、木の枝が渡され、希望者は護符の授与(有料)とともに、天狗による厄除けのお加持を受けることができます。「南無千観 南無千観 南無千観」と天狗は早口で唱えながら、頭を加持して下さいます。

愛宕念仏寺 天狗の宴このように深い歴史と、天狗というインパクトの強さを合わせ持った、天狗の宴(さかもり)。今は実際に酒盛をするわけではありませんが、ちびっこ明神太鼓と合わせて大変面白い行事ですので、機会がありましたら足を延ばしてみて下さい。なお、行事の様子は動画でもご覧下さい。

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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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