西本願寺は御影堂・阿弥陀堂という巨大建築が目を引きますが、その廊下には様々な生き物や道具をかたどった埋め木がはまっています。
江戸時代の京都は度重なる火災に見舞われましたが、それらをくぐり抜けてきたのが西本願寺の建物です。御影堂は寛永13(1636)年、阿弥陀堂は宝暦10(1760)年の建造で、いずれも浄土真宗の本山にふさわしい巨大建築です。西本願寺は世界遺産のお寺としても知られていますが、京の三閣の一つ・飛雲閣や書院、虎渓の庭などは普段は非公開で、見られるものが限定されています。しかし、御影堂や阿弥陀堂には自由に上がって参拝することができます。
大きな建物にばかり目が行きがちですが、是非見て頂きたいのが、足もとの廊下。長年の間に出来てしまった亀裂や穴をが補修され、その際に「埋め木」が行われているのです。この埋め木の形に工夫が凝らされていて、大工さんの遊び心が感じられます。魚やヒヨコなどの動物や、瓢箪や桜、ナスといった植物、さらには扇子や帆掛け舟など、探せば探すほど面白い形のものが見つかります。
私が感動したのは「象」の埋め木です。いつ補修されたものかは定かではありませんが、本当に綺麗に象の形をしていて驚かされました。象は、室町時代の応永15(1408)年に、足利義持に献上されたのが日本初上陸です。現在のように飼育施設が充実していない中でどうやって育てていたのが気になりますが、この象は2年半後に、朝鮮国へと献上されて再び海を渡りました。
江戸時代では、ベトナムからやってきた2頭の象が有名です。長崎に上陸した象のうち1頭は菓子を与えすぎたために舌にできものができ、それがもとで亡くなってしまいました。残された1頭が、将軍・徳川吉宗に献上されるため江戸へと向かい、この道中で一般庶民は初めて象を見た時といわれています。京都では天皇も象をご覧になり、無位無官では宮中に出入りできないため、従四位の位が与えられました。庶民よりはるかに偉い身分で、象は江戸へと向かって行ったのですね。
時は享保13年~14年、西暦1728年~29年にかけてのことです。江戸時代の人々は、巨大な象にさぞ驚いたことでしょう。西本願寺の象の埋め木は、阿弥陀堂にあります。阿弥陀堂は江戸時代に象が来てから30年ほど後に建造されていますので、その後の補修で埋め木を入れた大工さんは、もしかすると子どもの時に象を見ていたのかも・・・と、勝手ながら想像してしまいました。もちろん、近世の補修かもしれませんので、事実は分かりませんが。
他にも、阿弥陀堂や御影堂の埋め木はユニークなものがたくさんありますので、お時間のある方はじっくり下を眺めてみて下さい。魚の埋め木は、板の節を目に見立てているところが秀逸です。なお、阿弥陀堂前の案内板には「リス」の埋め木もあると書かれていますが、どうしても見つけられず、お寺の方に伺ってみましたがご存じないとのことでした。もし発見した方は、是非ご連絡ください(笑)
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。