今夜(19日)は、千本閻魔堂で普賢象桜の夕べが行われ、バンド演奏などで大いに盛り上がりました。
千本閻魔堂は遅咲きの八重桜である普賢象桜が有名なお寺です。花の中心にある変り葉が伸び、それが普賢菩薩がまたがる象の牙や鼻のように見えるところから、普賢象と呼ばれます。今から600年ほど前のこと、金閣寺(北山山荘)で知られる室町幕府の三代将軍・足利義満の時代に、一休さんの父ともされる後小松天皇は、義満の北山山荘へと招かれました。その途中、千本閻魔堂に立ち寄った天皇は、淡く清純な色合いの美しい普賢象桜を目にしたのです。
天皇は山荘へと着くと、義満に「まことにこの世のものとは思えないほどの見事な花であった。貴公も一度、見て参られよ。」と話したそう。それを聞いて見物にやってきた義満も、他にはない見事な八重桜に心を奪われました。そして花の時期に狂言を催すようにと、その費用を毎年与えました(ゑんま堂大念佛狂言の始まり)。このように、美しいものに触れる機会が多いはずの天皇や将軍をも感嘆させたのが、千本閻魔堂の普賢象桜。かつては桜と言えば一重のものが一般的だった中で、目にした八重桜の美しさは格別だったのでしょう。
また、この花は散り際が椿のように花ごとポトリと落ちることから、囚人に見せて信仰心を持たせるのに使われたともいわれます。閻魔堂の名でも知られる通り、お寺の御本尊は閻魔大王。その両脇には閻魔に仕える検事(司命尊)と書記役(司録尊)の像もあり、堂内にうっすらと残る壁画は、狩野元信の筆による地獄絵で、お堂の中はまさに閻魔様のいる地獄の世界そのもの。実は、戦国時代に織田信長とも親交のあった南蛮人、ルイス・フロイスはこの千本閻魔堂を訪れて、まだ鮮やかだった頃の地獄絵の迫力を伝えています。
さて、千本閻魔堂でこの時期に行われるのが、普賢象桜の夕べです。夕刻からお茶席が出たり、比較的安く焼きそばなども販売されています。堅苦しい行事というよりは、地元の方が盛り上げているイベントです。午後7時からは奉納舞台があり、人気を集めているのが中村三之助さん率いる「三ちゃんバンド」です。詳しいことは存じ上げませんが地元の人気バンドのようで、いわゆるおやじバンドと呼ばれる年齢層の方が、上手な演奏と心地よい歌声で盛り上げて下さいます。私も知っているような懐かしい曲が多く、もう会場(境内)はノリノリ!
境内は、子どもたちが大はしゃぎで走り回っていて、ものすごい地元感でした。千本閻魔堂の行事は、狂言にしても節分にしても地元の人気が非常に高く、お寺が結束を高める役割を担っているのでしょう。普賢象桜の夕べも、主役の桜を眺めている人はほとんどおらず、皆さんこのバンドの演奏を楽しみに来られているようで、もちろん私もよい意味で楽しませて頂きました。京都は今週末にかけてまだまだ八重桜が綺麗です。各地で咲いていますので、ご覧になってみて下さい。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。