京都の北部山間部から福井県の若狭にかけて伝わっている行事が「松上げ」です。中央に高さ10mから20mほどの巨大な大松明(灯籠木:トロギとよばれる)を立て、そこに向かって「上げ松」と呼ばれる紐で二つの小松明を結んだものを玉入れのように投げ入れて火をつけるというものです。さらに大松明が燃えて崩れ出しそうになる頃、大松明を一気に倒すという勇壮な場面もある行事です。京都では、同様の松上げ行事が花背より北の広河原や久多、旧京北町の小塩などでも行われ、雲ヶ畑では文字を灯す形態で行われています。
松上げは、火の神を祀る愛宕山へ献灯をして火除け・五穀豊穣を願う行事で、花背ではお盆の精霊を送るためにも行われているとされます。松上げは、もともとは修験者(山伏)の行事で、立てた柱に修験者が駆け上って火を点け、人びとの煩悩を焼き尽くすというものでした。これが次第に修験者の能力を競いあうものとなり、民間にも伝わってお盆の精霊迎えや精霊送りの迎え火・送り火と結びついて、現在の形態になった考えられています。松上げの日程は各地8月24日頃が多いですが、この日は地蔵菩薩の縁日であり、愛宕山にかつて祀られていた勝軍地蔵に由来しているのでしょう。
花背の松上げは現在は8月15日に行われていますが、かつては8月24日に行われていました。山の過疎化もあって人出が少なくなり、より集まりやすいお盆の時期に変更となったのです。松上げの行事は伝統的に女性が関われないこともあり、行事を維持していくのはご苦労もあることでしょう。一方で花背の松上げは、観光行事としても人気を集めるようになり、事前申込で京都バスの「松上げ観賞バス」に乗って行くことができます。往復2000円で、今年は私を含め今年も300人ほどが参加されていました。花背は京都市左京区ですが、鞍馬よりさらに深い峠を越えた先にあり、途中には道も狭く坂がたいへんきつい箇所がありますので、観賞バスに申し込むと楽かと思います。
さて、21時前になると松明(たいまつ)を持った地元の方々が集まり、やがて大松明(灯籠木)の周りに立ててある地松に火が灯され、炎の明かりで照らされます。そして地元古老の上げ松を合図に一斉に炎が飛び交う松上げが始まります。火のついた上げ松を放り投げて、大松明の上にある大籠(モジと呼ばれる)に火を点けるのです。一番最初の火は「一の松」と呼ばれ、この上げ松を投げたものは一年の無事があるとされています。
一の松が入ると次第に大松明(灯籠木)が燃え始めますが、周りの人びとはさらに上げ松を投げ入れて行きます。やがて大松明(灯籠木)から火の粉がこぼれ落ちるほどになると、鉦の合図で一気に大松明が倒されます。今年はこの段になって激しい雨が降り出して来てしまいましたが、なんとか無事に松上げを終えることができました。やはり何度見ても面白い行事です。松上げの様子は動画もありますのでご覧ください。なお、降りだした雨は土砂降りで、その後も降り続き、大雨・洪水警報も出されるほどでした。降りだす時間が遅れて運がよかったと思います。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。