洛西の鹿王院の舎利殿の裏に、ひっそりと沙羅の花が咲いています。
鹿王院は、嵐電・鹿王院駅のほど近くにあり、穴場と呼べるお寺です。JRの嵯峨嵐山駅からも歩いていくことができます。寺は室町時代の初期、足利義満が自信の延命を願って創建した宝幢寺の塔頭に始まります。入り口の山門や客殿には義満の字による額がかかっており、その筆跡がうかがえます。
鹿王院の魅力のひとつは長い参道。木々に包まれた参道を歩けば木漏れ日が心地よく、紅葉の時期はカエデが色づいてとても素敵です。今の時期は緑が心を癒してくれるでしょう。京都屈指のおすすめの参道です。鹿王院は観光地の嵐山に近いものの、その場所柄人が少なくゆっくりと歩くことができます。
境内を拝観すると客殿の前から嵐山を借景とするお庭が望めます。縁側に座って心行くまで時を過ごしてみてください。建物では舎利殿が目を引きます。鎌倉幕府の3代将軍・源実朝が宋の国から手に入れた仏牙舎利(ぶつげしゃり)を安置するお堂。仏牙舎利とは、お釈迦様の歯のことで、仏の説法が発せられる部分として仏舎利の中でも最も価値があるとされました。舎利殿の中にも入ることができますので、仏舎利が納められた厨子を守る四天王の像などを眺めてみてください。仏牙舎利は、10月15日にのみ公開されます。
この時期、舎利殿の裏側にひっそりと咲いているのが沙羅の花です。正確には「夏椿」という花で、お釈迦さまが入滅する(亡くなる)際に、白い花を咲かせて悲しみのあまり枯れてしまった「沙羅双樹」とは異なります。お釈迦様はインドの人物ですので同じ花が日本には無く、白色で椿と同じくポトリと花を落とし、さらに1日花という儚い姿から、夏椿が「沙羅双樹の花」とみなされ、平家物語の冒頭で「沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす」という一節にも影響していったと考えられています。普通に境内をめぐっていると気が付きにくい場所にありますが、この時期ならではの風情をぜひ感じてみてください。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。特技はお箏の演奏。