妙心寺の東林院で行われている小豆粥で初春を祝う会を訪れました。31日まで行われています。
妙心寺の塔頭寺院のひとつが東林院。普段は非公開ですが季節に応じた行事があり、特に6月の「沙羅の花を愛でる会」にはたくさんの方が訪れます。「小豆粥で初春を祝う会」は、毎年1月15日から31日まで行われており、境内では千両の実も見ごろを迎えます。小豆粥は桜粥、餅粥ともいわれ、新年に食すると一年中の邪気を払い、万病を除くと伝えられます。一般的には1月15日の小正月に頂くもので、小豆の赤は邪を祓い、旧暦の15日は満月=望月のため、鏡開きした餅を入れることが多いそう。京都では1月15日に下鴨神社でも振る舞われています。
東林院の「小豆粥で初春を祝う会」は、料金が3800円。時間は11時から15時までで予約は不要。その時の予定に応じて訪れることができます。粥に3800円は高いと思われる方もおられるかもしれませんが、妙心寺御用達の「阿じろ」さんが手掛ける本格的な食事で、粥のほかにも大根焚きや畑菜の辛し和え、黒豆など、お昼ご飯としても十分な内容となっています。
さて、受付で申し込みを済ませて堂内に上ると、ちょうど外から明るい光が差し込んでいました。寒い時期ですが光が差し込む様子には暖かさを感じます。案内された場所でまずいただくのは「お菓子」です。福茶と祝菓子で、茶は梅湯です。梅は寒中に開花し、雪や寒さにも節操を曲げないとして尊ばれ、しわのある梅干しは老人の代名詞ともあって長寿を表すとして喜ばれます。食事の前に頂くのは、梅湯で口を清め邪気を払う意味があるようです。
祝菓子は主菓子は「松の雪」と呼ばれ、小倉あんと小豆きんとん製。干菓子は結び笹が象られ、和三盆製で松とともに縁起物。昆布は喜ぶに繋がり、梅湯に入れてもよいでしょう。柿は嘉来に通じ、万物をかき集めるというおめでたい意味。豆は鬼が嫌がる厄払いに加え、マメであることに感謝し、健康で暮らせるようにとの意味。くわいの煎餅は、よい芽が出ますようにとの意。みかん(橙)は代々続き栄えるようにとの意とのことでした。概ね甘いものが多く、これらだけでもなかなかお腹が満たされてきます。
菓子を食し終わると順番に名前を呼ばれ、奥の建物に移動をしていよいよ小豆粥が出されます。そして食事の前に行われる「儀式」が「さば取り」です。魚類の鯖ではなく、生飯・施食と書いて「さば」と読ませるもの。禅寺では食事の前に般若心経と食事五観文などを読み、自分の受けた食の中から少量の「さば」を分かち、庭の木々に供え、鳥や小動物に施すのだそう。東大寺のお水取りで「生飯(さば)投げ」として、閼伽井屋の屋根に僧侶が食事の飯を投げますが、それと同じ考え方のようです。小豆粥の会では、係りの方が差しだす「さば器」という、塵取り形の道具に小豆粥から「さば」を乗せます。庭への施しは後ほど係りの方が行ってくれるようですが、お庭にはすでに供えられた「さば」がありました。
さば取りのあと、いよいよ食事です。小豆粥は味がほとんどありませんので、小皿のひじきを入れるとちょうどよいでしょう。大根や揚げ、畑菜の辛し(味噌)和えも美味でした。畑菜は今が旬で、京都では秦氏が創建した伏見稲荷大社の稲荷神が降りたったとされる2月初午に、秦氏を偲んでハタの名を持つ畑菜の辛し和えを食す風習があります。また、インパクトがあるのが蛇腹昆布。昆布を蛇腹骨のようにして揚げたもので、めでたい席で頂くものだそうです。硬いので粥に入れてもよいでしょう。
食事が済んだあとはお庭を眺めて各自解散です。途中の廊下にある千両のお庭は、彩りの少ない冬の時期に目を楽しませてくれます。昨年は鳥に食べられてしまったそうで実がほとんどありませんでしたが、今年は鳥対策もされていて、赤い実が鮮やか。槇の木に宿った松は飛龍をかたどって円を描く勢いで枝を延ばしていますので、ぜひ上もご覧ください。機会がありましたら、また来年以降も訪れてみたいと思います。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
第15回・第14回京都検定1級(合格率2.2%)に2年連続の最高得点で合格。気象予報士として10年以上。京都検定マイスター。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳」監修。特技はお箏の演奏。
東林院 小豆粥で初春を祝う会