北野天満宮のずいき祭りが10月1日から始まりました。今年は4日まで北野天満宮の本殿脇にて「ずいき神輿」が登場しています。
ずいき祭りの「ずいき」とは芋の茎のことで、ずいきで屋根が飾られた「ずいき(瑞饋)神輿」が登場することからそう呼ばれています。平安時代にこの付近一帯の西ノ京の人々が五穀豊穣を感謝し、新しく採れた穀物や野菜などを飾り付け、道真公の神前にささげたのがお祭りの始まり。400年前の江戸時代初め、北野天満宮の社殿が再建された1607年にずいき神輿となり、1802年には現在と同じ形の神輿になりました。明治維新の改革により祭りは中止となってしまいますが、地元の有志の力で15年後に復活を果たして現在に至っています。
例年であれば、JR円町駅の北にある御旅所に1日からずいき神輿が登場しますが、今年は1日の神幸列や4日の還幸列が中止となった影響で、ずいき神輿は北野天満宮の本殿向かって左手側の西廻廊に安置されています。神輿の飾り付けは、御旅所付近の西ノ京の人びとが担っています。例年であれば神輿は二つあり、小さめの子ども神輿と大人の神輿とがありますが、今年は大人神輿のみとなりました。こうした状況の中で製作いただけたことに感謝です。
神輿の四方の飾り付けは毎年異なった物語が描かれており、楽しみにされている方も多いです。材料は「土に還るもの」で行われるため毎年作り直す必要があります。千日紅は9月1日に収穫をして乾燥させたのちに、糸を通す作業を行います。花の総数は1万にも及ぶそう。また数日間持たせるため、ずいきは前日に収穫をして屋根に飾り付けます。数日経つと乾燥して縮み、屋根に隙間ができてくるため、例年4日の還幸祭の前には隙間に補充をするそうです。
近年は農家も農地も少なくなりましたが、今も住民たちが自分たちで野菜を育てて神輿を作っていて、毎年気候が違うなか、決まった日付に収穫期を合わせるのは大変なご苦労があるようです。また、麦わら細工は再利用はできますが、その精巧な模様や龍の図柄は友禅の型彫師にお願いをしているそう。まさに住民の思いや伝統技術が一体となって受け継いで来られた伝統です。
ずいき神輿の装飾には、毎年その時のタイムリーな題材が取り入れられています。今年の題材には、疫病退散を願う「あまびえ」や「神社姫」、人気の鬼滅の刃からは「邪鬼討伐」、大河ドラマの「麒麟がくる」の関連では桔梗の紋があしらわれた兜がありました。さらに昔話の題材では「わらしべ長者」、「金太郎」、「花咲かじいさん」、生き物では「蛸」も見事な作品でした。それぞれ多彩な材料を見事なアイデアで使用して形作られており、感嘆するばかり。
さて、個人的にはこのずいき神輿を見ることで「いよいよ10月が来たなぁ」と感じます。恐らく、同じような思いを持っておられるかたはおられるでしょう。ずいき神輿は、4日まで北野天満宮の本殿脇に鎮座しています。例年とは場所が違いますが、例年通りの姿を見せて下さっています。個性的なずいき神輿、ぜひ多くの方にご覧いただければと思います。
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吉村 晋弥(よしむら しんや)
京都検定1級に3年連続最高得点で合格(第14回~第16回、第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として10年以上。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2020」監修。特技はお箏の演奏。