先日、宇治の萬福寺を訪れました。
萬福寺は黄檗(おうばく)宗の大本山で、江戸初期に中国出身の僧・隠元(いんげん)を開山として創建されました。黄檗宗は、もともとは中国の臨済禅の流れを組みますが、そこに浄土の教えも入り、座禅に加え念仏を唱えることを修行の核とする宗派です。隠元は先に日本を目指して海に没した弟子の代わりとして招かれ、隠元自身も戦乱の続く中国に嫌気がさして来日を志したとされます。日本では徳川4代将軍・家綱によって宇治に土地を与えられて萬福寺を創建しました。萬福寺の伽藍は中国風で、隠元ののち13世までは中国僧が住職を務めています。
先に日本で広まった禅の宗派である臨済宗や曹洞宗は、江戸時代に至るまでの長い年月とともに独自の進化を遂げており、中国から伝わった黄檗宗は新鮮な禅として受け入れられて行きました。食事の面でも普茶料理が伝わり、煎茶の文化も広められる等、日本の文化においても大きな足跡を残していきます。隠元豆(インゲンマメ)も隠元が伝えたものとして有名です。
境内は山門から奥に拝観料が必要で、消毒と検温を経た後に入ることができます。萬福寺の象徴が開梆(かいぱん、魚梆)と呼ばれる魚の形をした道具で、木製の魚が玉をくわえた姿。通常は横に掛けられたバットのような棒で叩いて音を出し、行事や儀式の時刻を知らせます。玉は煩悩玉とも呼ばれてあぶくに例えられ、口からあぶくを吐くことで煩悩から解放されるというもの。また、魚は常に目を開けて眠らないように見えるため、眠気を覚まし怠惰を戒めるという意味もあります。この開梆の大きさがソーシャルディスタンスの距離として掲示されているのが面白いです。
境内は伽藍堂や鐘楼の修復が終わりつつありました。開山堂の北側に続く廊下に下がる鐘は「祈りの鐘」として、新型コロナウイルスの終息祈願で撞いて頂くこともできます。境内では今でも修行が行われており、禅堂の周囲などでは静かにすべきところもありますが、概ねゆっくりじっくりと拝観させていただけるお寺です。機会がありましたら、足を延ばしてみて下さい。
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吉村 晋弥(よしむら しんや)
京都検定1級に4年連続最高得点で合格(第14回~第17回、第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として10年以上。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2020」監修。特技はお箏の演奏。
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