千本閻魔堂(千本ゑんま堂:せんぼんえんまどう)で、遅咲きの普賢象(ふげんぞう)桜が見ごろを迎えています。
千本閻魔堂は遅咲きの八重桜である普賢象桜が有名なお寺です。花の中心にある変り葉が伸び、それが普賢菩薩がまたがる象の牙や鼻のように見えるところから、普賢象と呼ばれます。今から600年ほど前のこと、金閣寺(北山山荘)で知られる室町幕府の三代将軍・足利義満の時代に、一休さんの父ともされる後小松天皇は、義満の北山山荘へと招かれました。その途中、千本閻魔堂に立ち寄った天皇は、淡く清純な色合いの美しい普賢象桜を目にしたのです。
天皇は山荘へと着くと、義満に「まことにこの世のものとは思えないほどの見事な花であった。貴公も一度、見て参られよ。」と話したとか。それを聞いて見物にやってきた義満も、他にはない見事な八重桜に心を奪われました。そして花の時期に狂言を催すようにと、その費用を毎年与えたといいます(ゑんま堂大念佛狂言の始まり)。このように、美しいものに触れる機会が多いはずの天皇や将軍をも感嘆させたとされるのが、千本閻魔堂の普賢象桜。かつては桜と言えば一重のものが一般的だった中で、目にした八重桜の美しさは格別だったのでしょう。
また、この花は散り際が椿のように花ごとポトリと落ちることから、囚人に見せて信仰心を持たせるのに使われたともいわれます。閻魔堂の名でも知られる通り、お寺の御本尊は閻魔大王。その両脇には閻魔に仕える検事(司命尊)と書記役(司録尊)の像もあり、堂内にうっすらと残る壁画は、狩野元信の筆による地獄絵で、お堂の中はまさに閻魔様のいる地獄の世界そのもの。実は、戦国時代に織田信長とも親交のあった南蛮人、ルイス・フロイスはこの千本閻魔堂を訪れて、まだ鮮やかだった頃の地獄絵の迫力を伝えています。
桜のそばには、紫式部供養塔(重要文化財)と紫式部像があります。紫式部は創作の物語である源氏物語を書きました。つまり「うそつき」になってしまいます。と言うわけで、閻魔大王に地獄行きを告げられそうになるところ、閻魔大王に仕えていた小野篁(たかむら)に助けられたと語られます。
境内には小野篁像もあり閻魔大王に仕えるために通った井戸に入る時の姿。閻魔大王像は応仁の乱以降の作で、像も大きく、目が光って迫力があります(扉が閉じていることも多い)。千本閻魔堂は、正式には引接寺(いんじょうじ)と言い、5月初めの念仏狂言やお盆の時期のお精霊(しょらい)迎えでも有名です。小さなお寺ですが見どころの多い場所です。
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吉村 晋弥(よしむら しんや)
京都検定1級に4年連続最高得点で合格(第14回~第17回、第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として10年以上。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2020」監修。特技はお箏の演奏。
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