京丹後市の久美浜を訪れました。おすすめの場所が豪商・稲葉本家。古民家や古い展示物を見学でき、喫茶室で頂ける「ぼたもち」も名物です。4月3日まで立派な御殿雛が展示されています。

旅情を感じる街並みの久美浜ですが、その中で見学や喫茶ができるのは「豪商 稲葉本家」です。稲葉本家は、織田信長の家臣であった美濃(岐阜県南部)の稲葉一族の末裔と言われ、初代が武田信玄に抗して敗れ、この地に移り住んだと伝わります(信濃国から移住したとの説も)。江戸時代に糀(こうじ)製造で得た富で廻船業を営んだ結果、交易によってさらに大きな富を得、付近諸藩の公金を預かり、金融を独占するほどの豪商となりました。

江戸時代以来、周辺で飢饉や洪水、火災、大地震などで被害が出た際には私財をなげうって尽力をしたり、久美浜~宮津間の鉄道開通(昭和4年)にも多額の私財を寄付する等、公共への奉仕も行ってきた家柄です。

現在の建物は明治18年から5年をかけて新築したもので、竣工が明治23年。現地の解説によると、松材を井桁に組み上げた堅牢な木組み、土間と居間を一体として吹き抜ける大空間の構成など、格式を示す建築様式が特徴とのことです。1階は大黒柱や踏み段の板などケヤキ中心の構造、2階はヒノキが中心だそう。また、現在売店がある厨房空間はほとんど改造されず残されているそうで、貴重だとされています。建物は平成15年に国の登録有形文化財に登録されました。

2022年にはハート形の「猪の目窓」が設置され、結婚式の前撮りや成人式・七五三などの場面でも撮影をしていただけるとのこと。猪の目窓では南山城の正寿院が有名ですが、こちらも和室の中でよい雰囲気でした。

建物内は入場無料で見せていただくことができ、週末には事前予約で陶芸体験なども受け付けておられます。建物内にはレトロな品々が展示されており、庭園は京都で桜守として知られる十六代目・佐野藤右衛門氏の手によるお庭で、苔が美しい日本庭園です。随所に歴史を感じながらご覧を頂けるでしょう。

2023は1月2日~4月3日にかけて、ひな人形の展示が行われています。目玉は、江戸中期のものという大変立派な御殿雛です。明治4年に第12代に嫁いだ女性が嫁入り道具として持参したもので、京都御殿を模して、御殿のみならず築地塀や唐門まであるという豪華で珍しいものです。

牛車やお付の方々など、細部もよくできていて、いつまででも眺めていられそうな見事さでした。拡大できる道具をお持ちいただくと、より細部まで見られるでしょう。ぜひじっくりとご覧ください。綺麗な状態で受け継がれてきたことにも感動します。部材は人形類は20箱ほどの木箱に保管されていて、組み立てるのに1日半を要するそうです。

また、市内で切り出した青竹を筒状にして地域の女性たちが作られたという、お雛止め雛の飾りも名物で、販売されるのが恒例。昨年訪れた時にはすでに多くが売れて、代わりに横置きの雛飾りがたくさん置かれていましたが(こちらも可愛いです)、今年はまだ縦型の雛飾りがたくさん残っていました。

奥にある離れ座敷の「吟松舎」では、名物の「ぼたもち」を頂いて一服することもできます。個人的にも好きで、久美浜へ訪れる際には毎回頂いています。第13代・市郎右衛門が宮津線敷設のために巨額の私財を寄進した功績で、昭和25年に胸像が建造された際に、地元の人々が「ぼたもち」を作ってお祝いしたといい、今でも毎年11月23日に「ぼた餅会」が有志によって行われているそうです。なお、像の向きは美濃の方角を向いているのだとか。

吟松舎は、徳島の蜂須賀斉昌公の来遊に際し、江戸期に建てられたと伝えられ、久美浜代官も訪れ、明治維新期の慶応4年正月には山陰道鎮撫総督の西園寺公望(きんもち)の本陣としても使用されました。周辺は大正14年の北但馬地震と、昭和2年の北丹後地震で大きな被害も出ており、近世の建物が残っているのは貴重です。欄間等に数寄屋風の要素が見られ、落ち着いた雰囲気を感じながら、時間を過ごすことができます。

昨年は期間限定の、いちごぼたもちを玉露で頂きましたが、今回は人気というおぜんざいを頂きました。こちらも餡子好きにはたまらない優しい甘さで、ほっと一息を付けて心癒される時間でした。他にも、稲葉本家の蔵では写真展が行われていたり、1年後、3年後、5年後の未来に送れる郵便ポストも置かれているなど見どころの多い場所。久美浜へ行かれる際には、ぜひ 「豪商 稲葉本家」 にも訪れてみて下さい。

ガイドのご紹介

京都検定1級に6年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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