この春に大津港まで延伸した「びわ湖疏水船」に4月4日に乗ってきました。貴重な体験をすることができました。
琵琶湖疏水は、琵琶湖と京都を結ぶ水路で、明治時代に入り活気を失いつつあった京都の復興政策として明治18(1885)年に着工され、5年後の明治23(1890)年に完成しました。工事責任者は若き技術者であった田邊朔郎(たなべさくろう)。京都府知事は北垣国道(きたがきくにみち)でした。疏水は、人や物資の運送を主目的とし、水力発電によって電気による動力で市電を走らせたり、防火目的等でも使われています。明治45(1912)年の第2疏水開通後は、京都市民の水道水として重要な役割を果たしています。
かつて疏水は多くの人々が船で行き交い、最盛期には年間13万人ほどが利用するようになりましたが、明治末から大正初期に京阪電車が開通したことで利用者が減り、昭和の戦後には物資の運送も停止して役目を終えました。長らく疏水の船は失われていましたが、近年、復活に向けた行政の動きもあり、ついにこの春、観光資源として本格的な船の運行が始まりました。復活には様々なご苦労があったそうですが、実際に乗ってみて、その面白さに感動させていただきました。
船は蹴上から大津(三井寺または大津港)へと向かう上りと、大津(三井寺または大津港)から蹴上へと向かう下りとがあり、料金は同じですが、乗船時間が異なっています。なんと、水の流れに逆らう蹴上→大津のほうが速いのが特徴で、これは水の流れに逆らって舵をとるために、ある程度のスピードが必要だからだそうです。具体的には大津港~蹴上の上りが65分(前後の所要時間を含めて110分、以下同じ)、下りが85分(所要時間130分)。三井寺~蹴上の上りが35分(所要時間80分)、下りが55分(所要時間100分)となっています。定員は上りが9名、下りが12名と、下りのほうが多くなっています。
料金は期間によって異なり、大津港~蹴上は片道14000円(ただし春のこの区間の運航は終了)。三井寺~蹴上間は、桜・紅葉のトップ期は片道9000円、それ以外は8000円か7000円が基本で、6月初めの平日に一部6000円の設定があります。下りの場合のみ山科で乗り降りできる便があります。事前予約制で、春の運行は6月上旬まで。
次回秋の運行は10月・11月で、予約の受付けは昨年は8月からで「ふるさと納税」の特典の方は予約時期が早い8月1日~、一般は8月25日~でした(2024年の予約開始日は今後余要確認)。なお、今年の春の予約はふるさと納税枠は2月7日~、一般は2月21日でした。桜・紅葉のよい時期は解禁ほどなく予約が埋まるためご注意ください。
船の席は、複数名の場合は近くする配慮はしていただけますが、体重等も考慮されるため船長の指示に従う形になります。屋根はありますが、雨天時にはレインコートの着用が推奨されています(傘は使用不可)。予約に関する詳細は、びわ湖疏水船のホームページを必ずご確認ください。
さて、今回は大津港まで延伸した便に乗ってきました。まず大津港まで行くのは今年からの開始とあって、予約が解禁と同時にほとんど埋まっていました。秋も同様の状況が見込まれますので、大津港まで(大津港から)乗りたいという方は、予約解禁日に予約申し込みをしていただくとよいでしょう。なお、上りと下りは所要時間も異なるため、それぞれスピードや演出が違い、どちらがおすすめとは言い難いです。
また、大津港発着便は、琵琶湖上の風や波の状況により当日運航不能な場合、三井寺発着に変更となり、差額を返金する対応とのことです。実際、この春もそうした運用の日はあり、大津港まで行けるのは運が良いかもしれません。そして、琵琶湖に出ると一気に波が高くなるため、船が大きく揺れる場合があります。船酔いをしやすい人は要注意ではないでしょうか。
乗船では疏水を船で通れる爽快さはもちろん、やはりトンネルの中に入って行くのは感動的です。トンネルの入り口には、明治の元勲たちが揮ごうした書をもとにした扁額が掲げられており、水が入る上流側が陰刻、下流側は陽刻となっています。トンネル内は一気に空気が冷たくなるため、上着などがあるとよいかもしれません(船でもブランケットは用意して下さっているはずです)。
変化する風景のみならず、ガイドさんの軽妙な解説も付き、琵琶湖疏水の歴史や見どころがよくわかります。道中では岸辺の方々が手を振ってくれることもあり、乗っている方も非日常の気持ちになれるでしょう。やはり桜が咲いていればさぞ美しいと思いますが、どうしてもその年の気候によって前後がありますので、運もいるでしょう。今回は桜の中を走ることができ、大変ラッキーでした。
疏水の第一トンネルは全長約2.4㎞の長大なトンネルで、明治初期には大変な難工事でした。途中から二つの竪坑を掘って、そこから横に掘り進める工法が採られています。現在も竪坑は残っていますが、特に第1竪坑から疏水の中には、はるか上の地上の光が差し込んでいます。さらに途中から涌き出た水が、滝のように流れ落ちています。通称「疏水の滝」と呼ばれていました。たいへん神秘的な光景で、感動間違いなしの場面でしょう。一瞬で通り過ぎてしまいますので、特に写真を撮るのは至難の業かもしれません。動画が推奨です。
また、第1トンネル内壁にも、この船に乗らなければ絶対に見られない、北垣国道知事による「寶祚無窮(ほうそむきゅう)」の文字が刻まれています。「皇位は永遠である」という意味だそう。こちらも一瞬で通り過ぎます。滝やトンネル内の揮ごうは、大津→蹴上のコースのほうが、速度がゆっくりで少し見やすいかもしれません。
他にも片山東熊が設計した、レンガ造りが美しい旧御所水道ポンプ室(旧九条山浄水場ポンプ室)の外観や、トンネルの出入り口の扁額やトンネルの形状の違い、阪神淡路大震災の後に設けられという緊急遮断ゲート、大津の第一トンネル入り口の扉や刻まれているレリーフなど、様々な見どころがあります。いずれもガイドさんが解説をしてくださいますので、きっと新たな発見があることでしょう。
また、大津港までの便では、疏水と大津港との水位差をパナマ運河式で調整する「大津閘門」を通ることができます。当時使われていたものを電動化改修工事をして、この春から約73年ぶりに営業稼働することとなりました。琵琶湖の方が水面が高く、私が乗った蹴上→大津港の便では水が入り込んで船が上昇していく様子に迫力も感じました。先述のとおり、天候によっては三井寺まで(三井寺から)の運航となる場合もありますので、この体験ができるのも運が必要です。
この春の大津港~蹴上間の運航は終了しましたが、三井寺~蹴上間の運航はまだ予約が可能です。よければ乗船をしてみてください。なお、船からの様子は動画でもご覧ください。大津閘門が稼働する様子も撮影しています。
ガイドのご紹介 吉村 晋弥
京都検定1級に7年連続の最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。
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