愛宕山中の月輪寺と雫を落とす時雨桜

5月に愛宕山にある月輪寺(つきのわでら)を訪れました。月輪寺には、時雨桜という不思議な桜があり、ちょうど涙を流すように葉から輝く雫を落とす様子を目にすることができました。

月輪寺 時雨桜

月輪寺は険しい愛宕山の山中に古くからあるお寺です。かつては中国の五台山を模してそれぞれの峰に五つのお寺があったといい、朝日峯の白雲寺が現在の愛宕神社で、他には大鷲峯の月輪寺と高雄山の神護寺が今も残ります。山中で法灯を伝えるのは本当に大変なこと。実は月輪寺は険しい山中で車が通れる道路はなくアクセスは登山道のみ。水道やガスもありません。厳しい環境ながら、御年77歳の庵主様が今でも山中でお寺を守っておられます。

月輪寺

月輪寺は空也上人・法然上人・親鸞聖人と関わりを持ち、鎌倉時代初期の公卿・九条兼実はこのお寺に隠棲したともいわれます。現在も残る仏像群は大変素晴らしく、重要文化財の仏像を8体もお持ちです。一度見たら忘れられない目をギョロリと見開いた独特の作風の空也上人像や、平安初期の千手観音像など一見の価値があるのですが、宝物庫は平日のみで要事前予約。さらに雨の日には山道が危険となるため参拝が不可となりますのでご注意ください。

月輪寺

寺は2012年に大雨によって境内が土砂災害に見舞われるなど、非常に厳しい環境で、存続の危機に瀕しています。京都に数多ある社寺の中でも、車で行くことができず、自力で登って訪ねるしかない場所は数少ないでしょう。しかし、平安初期以来の仏様をこの場所で拝ませていただけるのは大変ありがたいことです。

月輪寺

境内はシャクナゲ(石楠花)が知られ、4月中下旬から美しい花を咲かせます。石楠花は花の見ごろの期間が一週間ほどと比較的短く、山中にあって気軽には来れないこのお寺で、満開の石楠花に出逢えるのはラッキーなことでしょう。

月輪寺 時雨桜

また、境内の時雨桜(しぐれざくら)は4月から5月中旬にかけて葉から雫を落とす不思議な桜です。この桜は親鸞聖人が植えたと伝わり、法然上人との別れを惜しんで、桜を通して涙を流しているのだといわれます。時雨れの時期は決まっていて、毎年春の4月下旬から5月中旬のみで秋には落とさないとのことです。晴れているときほど、よく雫を落とすのだとか。本当に不思議な光景で、風が吹くと雫が屋根に落ちる音が響きます。仏心というままにしておくのがよいのだとは思いつつも、科学的な理由が気になってしまいます。雫は丸まっている葉から落ちるのも関係をしているのかもしれません。

月輪寺 時雨桜

月輪寺へは麓の清滝から登る経路と、愛宕神社から下る経路もあります。愛宕神社からの下りも険しい山道で、すれ違う人も少なく、しかも下り坂でも結構時間がかかります。以下すべて下りの時間で普通のペースで、愛宕神社の境内から月輪寺が40分からゆっくりで50分。月輪寺から麓へはさらに40分~50分(上りだと1時間程度)。麓から清滝へは林道を抜けて30分ほどはかかります。山道は暦上の日没前でもずいぶんと暗くなります。ご自身の足や天候、道の状況なども踏まえて、計画的にお進み下さい。

月輪寺 鹿が現れる

月輪寺は標高は約560~570mと楽に行ける場所ではないですが、山登りの準備を整えて天候を見た上で、優しい佇まいの平安初期の仏様に、一度目にすれば二度と忘れないであろう空也上人像に、お一人でお寺を守っておられる庵主様に、ぜひ一度会いに行ってみて下さい。また、可能でしたらお供え物として飲食物などをお持ちいただけるとよいでしょう。

月輪寺からの眺め

月輪寺の宝物庫の白い建物は京都市街地からも見える場所があります。なかなか行けない場所ですが、個人的には麓から月輪寺の姿を見る度に、貴重な仏様や厳しい山中でお寺を守っておられる庵主様のことを思い出します。今後もこの場所で信仰が受け継がれていくことを願っています。

月輪寺からの眺め

ガイドのご紹介 吉村 晋弥

京都検定1級に7年連続の最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。

散策・講座のお知らせ

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【散策を受付中!】
5月28日(火)14時~17時頃
一休さんゆかりの一休寺!新緑が美しい京田辺の名刹へ

6月4日(火)13時30分~16時頃
比叡山の借景を望む正伝寺と緑が包む神光院へ

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奥深い京都へのいざない!マニアック京都講座
その9 「京都 惟喬親王ゆかりの地」

6月:愛宕神社と愛宕山

【散策受付予定】
6月10日(月)13時~15時半頃 伏見稲荷大社の田植祭と龍の像が建つ伏見神宝神社
6月14日(金)午後 → アジサイの散策(予定)

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