京都検定のテキストには様々な祭事が載っています。その中でも、広河原の松上げは見るのが難しい部類に入るでしょう。広河原は京都市左京区にあたりますが、ほぼ最北の場所にあり、京都市街地からは車で1時間半ほどかかります。そんな難所ではありますが、今年は2013年以来に松上げを見に訪れました。
前回は京都バスの観賞バスに申し込みましたが、今回はレンタカーでやってきました。観賞バスはどうしても終電などの関係で最後まで見られなかったり、松上げに続く「ヤッサコサイ踊り」が見られないため、車が運転できる方は車で訪れるのもよいでしょう。無料の駐車場があります。注意点は、バスを含めて道中は険しい山道を通るため車に酔いやすい方はお気を付けください。
松上げは、火の神を祀る愛宕神社への献火とともに、火災予防と豊作祈願として行われている祭事です。中央に立てられた高くて大きい松明(燈籠木:とろぎ)に、紐のついた小さな松明(上げ松)を遠心力でまるで玉入れのように投げ入れて火を灯します。その周りの広場にも一面に松明が灯され、一面は「火の海」とも呼べる状況となります。実は、洛北の花背でもほぼ同様の行事が8月15日に行われています。その様子は過去のブログでご紹介しました。こちらもよければご覧になってみて下さい。
さて、松上げが行われる広場には20mもの巨大な燈籠木(とろぎ)がそびえ立っています。写真ではスケール感が伝えきれないと思いますが、現地で見ると威圧感さえ感じる高さです。観賞場所は広いので見えない心配はないかと思いますが、最前列などはカメラマンが早くから来て場所を取っていますので、特に観賞バスで訪れる方は時間的に難しいかもしれません。なお、雨などで地面が濡れている可能性があり、座れるようにシートや簡易のイスがあるとよいでしょう。ライトもお持ち下さい。なお、2024年は軽食の販売がありました。
20時30分頃になると、鉦が打たれて会場の周りに順番に松明が灯されていきました。一通り灯し終わると、大きな燈籠木の周りに男たちが集まって、いよいよ松上げの開始です。今年は投げ始めは20時50分過ぎの時間でした。燈籠木は高さがビルの7階分にも相当する20mもありますので、放物線のピークが合わないと乗せるのは難しく、初めのうちは全く乗りそうな気配がありません。だんだんと惜しいものも増えてきますが、今年はなかなか乗らず、眺めている観客にも疲労の色が見え始めるほどでした。
そして投げ始めから約30分経った21時23分頃、ついに燈籠木に松明が乗りました!見物客からは大きな拍手と歓声が上がります。乗った瞬間の動画もありますので、ご覧になってみて下さい。通常は、松明が乗ると燈籠木も燃え出してきますが、今年はなかなか燃えません。ということで再び乗せる必要があり、これがまた時間を要しました。
もう今年は火が点かないのではないかという、諦めモードも漂う中、ようやく2度目の松明を乗せることに成功しました!観客からも安堵に似た歓声が上がります。時間は21時38分頃で、最初の投げ始めから45分余りかかりました。そして今度こそ、燈籠木が燃え始めました。
燈籠木に炎が灯った後は、再び活気が戻り、まだ上げ松を乗せようと頑張って投げています。しかし、やはり乗せるのが難しく、なかなか乗りません。思えば2013年の時も1回乗ったきりでした。広河原の松上げは、ほとんど燈籠木に乗らないため、見る方も心と時間に余裕が必要となるでしょう(印象としては、花背の松上げよりも乗りません)。
燈籠木が勢いよく燃え、炎が灯って10分程すると、燈籠木からも火の粉が落ち始めます。その段になると、いよいよ燈籠木が一気に倒されるのです。高さ約20mもの大きな炎が一機に倒れる様子は迫力があり、こちらも大きな歓声が上がっていました。今年は観客が眺めている川の方に向かって倒れ、かなりの迫力でした。倒れる様子の動画もあります。
広河原の松上げには、花背の松上げにはない風習もあります。今年は燈籠木が川に落ちたので別に火を点けましたが、例年は倒れた燈籠木から支えていた柱を外すと、炎にどんどんと藁を足していきます。そして男たちが山側と川側に分かれて、「山行くぞ~!」のかけ声で、山側の男たち数人が火のついた藁に勢いよく棒をつっこんで上に放り上げる「つっこみ」が行われます。これによって炎がボワッと大きくなって、はたから見ていてもかなりの迫力を感じました。同じように「川行くぞ~!」のかけ声で「つっこみ」が行われ、勇壮な火祭りが続いていきました。
さらに祭りはこの後、盆踊り(ヤッサコサイ踊り)へと流れていきます。京都バスの観賞バスツアーでは見られても先述の「つっこみ」まで。特に今年はなかなか上げ松が乗らず、火が点くのが遅れたため、燈籠木が燃えだして程なくバスに戻った方も多かったのではないでしょうか。その点でも運が必要かもしれません。自家用車やレンタカーで訪れると、時間は気にせずとも帰れるかと思います。
さて、松上げが行われている中、松上げの場所からさらに道路を奥に進んだ観音堂では、女性たちによる「ヤッサ踊り」が行われています。観音堂の木製の床上に下駄でリズムを取りながら踊る足踏みが印象的な踊りで、男性陣が松上げを終えてやってくるのを踊りながら待っています。なお観音堂には、お盆の8月15日から普段は佐々里峠に祀られているお地蔵様を運んできて一緒にお祀りし、松上げが終わる25日に峠へとお戻しする習わしもあります。
男たちは松上げの後処理が終わると、列を組んで伊勢音頭を歌いながら出発し、観音堂へと移動をしてきます(歌うのは出発時と到着時のみでした)。そして観音堂に入ると男女混じって盆踊りの「ヤッサコサイ踊り」が始まりました。歌声の中に「ヤッサコサイ」という掛け声が入っています。今回初めて目にすることができて感動しました。
踊りは明るい雰囲気で、やっさこさい踊りに続く「コレアネサン」という曲は即興で歌詞を付けるようで、笑いも起きながら夜が更けていきました。山間に響く踊りの歌声は心地よく、松上げだけでなくこの踊りも含めての行事なのだと感じました。今では日付が変わる前に終了しますが、かつては一晩中踊り明かしたのだとか。
なかなか見る機会のない広河原の松上げ。今回も一通りは動画でご紹介できますが、一面に松明が灯る幻想的な様子や、炎や燈籠木が倒れる迫力、煙の香りなどは、現地でしか分からないものがあります。大変なご苦労を経ながら、今でもこうして行事が続けられていて、一般の方を温かく迎えて下さることにも感謝をするばかりです。機会がありましたら、是非、皆様の目でご覧になってみて下さい。
ガイドのご紹介 吉村 晋弥
京都検定1級に7年連続の最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。
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