佐伯灯籠 昼の灯籠と人形浄瑠璃

8月14日に亀岡市の薭田野神社や御霊神社で行われる佐伯灯籠を見に行きました。

佐伯灯籠 人形浄瑠璃

薭田野(ひえだの)神社は、薭田野にある神社で癌封じのご利益でも知られる神社です。この神社を中心に8月14日に行われる佐伯灯籠(さえきどうろう)は、国の重要無形民俗文化財の行事で、特に人形浄瑠璃が行われることで知られています。私も長年かけて京都府下の国の重要無形民俗文化財の行事をそれぞれ見てきましたが、今回その最後として完全ではないものの佐伯灯籠を初めて見に行くことができました。

佐伯灯籠 台灯籠

佐伯灯籠は、灯籠を飾る盆行事と五穀豊穣を祈願する神事とが結びついた民俗行事、薭田野町と吉川町にまたがる旧佐伯郷に鎮座する薭田野神社、御霊神社、河阿(かわくま)神社、若宮神社の四社合同祭典として行われます。行事は午前中から深夜まで長きにわたります。今回は日中の行事を眺めてきました。「灯籠追い」や「太鼓がけ」といった夜の行事は未見ですので、また来年以降に訪れたいと思います。

佐伯灯籠

さて、午前中には年間の農事を現した風流灯籠5基と人形浄瑠璃の舞台ともなる台灯籠1基が、それぞれの集落から出されて集まってきます。出発式は持ち回りで年によって出す集落が変わります。各集落からは11時半~12時前にかけて灯籠が薭田野神社近くの集合場所に順次集まります。周辺は田んぼも残り、そうした場所を灯籠が通るのが印象的です。歩く際には伊勢音頭も歌われました。

佐伯灯籠

持ち寄られる灯籠は、一年の農事を紙で作られた人形で表した風流灯籠で、表情も含めて可愛らしいものです。それぞれの灯籠は〇番で呼ばれ、一番が巫女が神前で能を奉納している様子を表した「御能(おのう)」、二番は苗代作りから種蒔きまでの様子を表した「種蒔き」、三番が田植えの様子を表す「田植え」。

佐伯灯籠

四番が収穫した稲の籾摺り作業や籾殻を箕で分ける様子を表す「脱穀・臼摺」、五番が豊作で地鎮祭や地慣らしの様子を表す「石場搗き(いしばつき)」となっており、浄瑠璃が演じられる「台灯籠」は京都御所の紫宸殿(ししんでん)を背景にしたものといわれています。

佐伯灯籠

さて、集合場所に集まった灯籠は、12時になると薭田野神社に向かって進んでいきます。やはり大勢の行列は迫力があり、薭田野神社へと入っていくと灯籠を置いて、休憩となりました。

佐伯灯籠

13時から神事となり、神輿を担ぎだすと、灯籠らを含めて行列を組み、御霊神社へと出発していきます。太鼓は子どもたちが中心となって運んでいきました。この日も37℃を超える猛烈な暑さで、途中休憩をはさみながら御霊神社へと入っていきました。

佐伯灯籠

御霊神社では、河阿(かわくま)神社、若宮神社からの一行も合流して、合同の神事が行われます。神事では神前から火が分けられて各風流灯籠の前に灯され、さらに境内に寝かされている藁の松明に火が点けられました。一気に燃え上がり、昼間の暑さと相まってすごい熱気です。

佐伯灯籠

そして松明が燃える中、神事とは別に御霊神社の鳥居前で人形浄瑠璃が始まります。神事とは完全に別の動きをしますのでご注意ください。神事はまだ続いており、神輿が境内を担がれたりもしますが、浄瑠璃は別に淡々と奉納されていくというのが意外でした。地元の方々は神事に関わる方が多いためか、神事を中心に見ており、浄瑠璃はほとんど見られていないのも不思議でした。

佐伯灯籠 神輿

人形浄瑠璃は、語り部の太夫と三味線に加え、台灯籠にて複数名の人形遣いによって演じられます。この佐伯灯籠で使われる人形は、20~35㎝ほどの京雛の背に竹串を刺し一人で操る一人遣いの人形で、三人遣いの文楽人形以前の、室町時代の古い形態を伝える貴重なものといわれています。演目は「菅原伝授手習鑑 寺子屋の段 源蔵もどり」でした。繊細な人形の動きと語りが相まって、人形に命が吹き込まれるような見事な上演を見させていただきました。

佐伯灯籠 人形浄瑠璃

浄瑠璃の奉納が終わると神事もひと段落し、この後の集落内巡行に向けて車に灯籠や太鼓、神輿などを載せて準備を始め、準備が整う頃、御霊神社の前でも先ほどとは別に松明を焚きます。

佐伯灯籠 人形浄瑠璃

一行がトラックなどで御霊神社から出発した後、浄瑠璃は場所を変えて再度奉納されます。神社を出て北にある場所で、庄屋跡と呼ばれている場所にて「菅原伝授手習鑑 寺子屋の段 首実験」が奉納されました。祭りの関係者が出払った後とあって、見ている方は少なかったですが、丁寧に演じていただけました。

佐伯灯籠 人形浄瑠璃

今回は佐伯灯籠の昼の行事を見ることができました。夕方からは薭田野神社の前にある佐伯灯籠資料館にて、小学4年生による上演があったり、さらに深夜に至る「灯籠追い」や「太鼓がけ」も大変興味深い行事です。ぜひまた来年以降に見ることができればと思います。今年の昼間は猛暑の中でしたが、祭礼や浄瑠璃の関係者の皆様も本当にお疲れ様でした。

佐伯灯籠 人形浄瑠璃

ガイドのご紹介 吉村 晋弥

京都検定1級に7年連続の最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。

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