9月9日は重陽の節句。別名を「菊の節句」ともいいます。市比賣(いちひめ)神社では、長寿を願う重陽祭が行われました。
市比賣(いちひめ)神社は、女性の守り神としても知られます。五柱のご祭神は全て女性の神様で、宗像三女神に加え、下光比賣命(シタテルヒメノミコト)、神大市比賣命(カミオオイチヒメノミコト ※神社のホームページの表記に準拠)を祀っています。神大市比賣命は、農耕の守護神で、名前に「市」の文字が入っているように、市場の神としても信仰されました。すなわち、市比賣神社は元は平安京の市場の守護神として信仰されていました。現在も京都市中央市場の敷地内に分社がお祀りされています。
重陽祭は、京都の各社寺で行われている祭事です。かつては陰陽思想にそって物事が考えられ、陰と陽といった相対するものが合わさって完全になるとされました。太陽と月、火と水、男と女などが最たるものですが、数字においてもこれ以上分かれない奇数が陽の数、分かれる偶数が陰の数とされました。そして最も大きい陽の数である9が重なる9月9日は、最も陽の力が強い日となり、日本では古くからめでたい日取りとして祝われてきたのです。一方で、最も陽の気が高まるということは、以後の日は陽の気が弱まっていくため、厄払いを行う日ともされています。
重陽の節句は、別名「菊の節句」と呼ばれます。この節句も、旧暦では今から1か月ほど先の菊の花の咲く時期に行われていました。重陽の節句は宮中・公家を中心に重んじられた節句でした。中国には菊の露を飲んで不老長寿を得た菊慈童(きくじどう)の伝説があり、長寿祈願・厄除けとして菊酒を飲む習わしが伝わり、各地の重陽祭では今も菊酒が振る舞われます。ちなみに菊慈童の伝説は、祇園祭の菊水鉾のモチーフともなっています。
さて、市比賣神社の重陽祭では、きせ綿を被せられた菊の花など、境内の各所で菊が飾られていました。「菊のきせ綿」は、重陽の節句の前日に白・赤・黄の3色3本づつ、計9輪の菊の花に綿を被せて菊の香りを移し、翌9日の朝に、露で湿った綿で身をぬぐい不老長寿を願うものです。白の花には黄色、赤の花には白色、黄の花には赤色の綿を乗せるとのこと。また古く宮中では、綿のことを「御中(おなか)」と呼び、神社では菊に被せた綿をお守りとして授与する「菊の御中守り」が、9月9日に限って授与されています。
また、強い香りを持つ呉茱萸(ごしゅゆ)を赤い茱萸袋(ぐみぶくろ、茱萸嚢”しゅゆのう”とも)に入れて、身に付けたり柱に掛けたりして厄除けを願う習わしもあり、同じく市比賣神社で目に出来ました。香りによって疫病除けを願う風習で、かつては5月5日の端午の節句で菖蒲やヨモギの薬玉を飾り、9月9日に茱萸袋に替えたそうです。
重陽祭の境内には多くの地元の方が訪れ、境内はいっぱいになりました。今回は大変幸運なことによい位置で見させていただきました。神事は粛々と進んでいき、やがて巫女さんによる「菊寿の舞」が奉納されました。菊の花を手に持って舞われる優雅な舞です。演奏や歌も「いちひめ雅楽会」の方によるのでしょう。例年は鳥居の付近で舞われますが、雨の年は殿内での奉納となることもあります。
神事が終わると、神職のご挨拶の後、菊酒が振る舞われ、「なんてんはし」や小さなお菓子の授与がありました。南天は「難を転ずる」という語呂合わせです。「なんてんはし」は男性用、女性用と分かれていました。女性守護のご利益で有名な神社ですが、もちろん男性が参拝しても問題ありませんので、機会がありましたら、足を延ばしてみて下さい。
ガイドのご紹介 吉村 晋弥
京都検定1級に7年連続の最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。
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