宇治の萬福寺を訪れました。

萬福寺は黄檗(おうばく)宗の大本山で、江戸初期に中国出身の僧・隠元(いんげん)禅師を開山として創建されました。黄檗宗は、もともとは中国の臨済禅の流れを組みますが、そこに浄土の教えも入り、座禅に加え念仏を唱えることを修行の核とする宗派です。

隠元禅師は先に日本を目指して海に没した弟子の代わりとして招かれ、隠元禅師自身も戦乱の続く中国に嫌気がさして来日を志したとされます。来日期間は3年間の予定でしたが、日本では徳川4代将軍・家綱によって宇治に土地を与えられて萬福寺を創建。中国風の伽藍が造営され、隠元禅師は日本でその生涯を終えました。隠元禅師ののち13世までは中国僧が萬福寺の住職を務めています。

先に日本で広まった禅の宗派である臨済宗や曹洞宗は、江戸時代に至るまでの長い年月(約400年間)で独自の進化を遂げており、中国から伝わった黄檗宗は新鮮な禅として受け入れられて行きました。食事の面でも普茶料理が伝わり、煎茶の文化も広められる等、日本文化においても大きな足跡を残していきます。隠元豆(インゲンマメ)も隠元禅師が伝えたものとして有名です。

境内は三門から奥に拝観料が必要です。山門から奥に直線で並ぶ、天王殿、大雄宝殿(本堂)、法堂は2024年に国宝の指定を受けた貴重な建物。萬福寺創建当時の建築で、天王殿はチベット風のたすき高欄、大雄宝殿と法堂は黄檗天井とも呼ばれる蛇腹天井が印象的です。隠元禅師は境内全体を龍に見立てて設計したといわれます。天王殿には都七福神のうち布袋尊が祀られています。中国人仏師・范道生(はん どうせい)の作で、その福々しい姿からは生命力を感じます。范道生は大雄宝殿内の十八羅漢像など、境内の諸仏を手がけました。

萬福寺の象徴が開梆(かいぱん、魚梆)と呼ばれる魚の形をした道具で、木製の魚が玉をくわえた姿。通常は横に掛けられたバットのような棒(今はかかっていません)で叩いて音を出し、行事や儀式の時刻を知らせます。玉は煩悩玉とも呼ばれてあぶくに例えられ、口からあぶくを吐くことで煩悩から解放されるというもの。また、魚は常に目を開けて眠らないように見えるため、眠気を覚まし怠惰を戒めるという意味もあります。

他にも見事な書を目にできる諸堂の額と聯(れん)、牌楼(ぱいろう)形式の総門と摩訶羅(まから)、隠元禅師の寿塔、異国情緒あふれる范道生の諸仏など、中国風の雰囲気を感じられる境内です。

5月10日までは隠元禅師が隠居所として住まわれた松隠堂が別料金で公開されています。寛文3(1663)年に禅師に帰依された長姫(おさひめ:美作津山藩の支藩の宮川藩の関長政の妻)の遺言で江戸屋敷が寄進されたとのこと。長姫は妙心寺の大法院の開基としても名が出ます。現在の建物は元禄7(1694)年に改築されており、近年修復が行われました。特別公開では客殿に立ち入ることができます。お庭を含め、撮影は全面禁止です。中央の部屋は鴨居が高いことが印象的で、正確な高さはわかりませんでしたが、イメージとしては智積院の松に秋草図(230㎝弱)が嵌るならばこのサイズ感だろうと感じました。奥の間は、作者は不明ながら見事な鳳凰の絵や山水画が描かれた襖絵がみられ、隠元禅師の肖像画も掛けられています。近年の修復もあって内部は大変綺麗でした。よければこの機会に訪れてみてください。

ガイドのご紹介 吉村 晋弥

京都検定1級に8年連続の最高得点で合格(通算11回合格。第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。
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