水を湛える宕陰(とういん)の棚田

宕陰の棚田
先日、右京区の山間部にある越畑(こしはた)と樒原(しきみがはら)を訪れる機会がありました。この二つの集落に広がる棚田は「宕陰(とういん)の棚田」と呼ばれています。

宕陰の棚田地図で見ると、越畑や樒原の奥地ぶりに驚くかもしれません。水尾(みずお)ですら道が狭くて訪れるのは大変な山間地なのに、その奥とはいかばかりかと思ってしまいますが、実は亀岡側から回り込む道があり、そちらから行けば意外と近く行けてしまいます。道も水尾経由よりも断然亀岡経由の方が走りやすくて安全です。ただ、国道477号は亀岡側からでも一部狭いため、北に迂回をした「紅葉山トンネル」経由の方が走りやすいでしょう。

河原家住宅さて、亀岡側から越畑へと入るとほどなく目に入るのが河原家住宅。長屋門が印象的で、長閑な山里に立つ家の典型例のような外観をしています。それもそのはずで、この長屋門は築300年以上という元禄9年(1696年)の建築。主屋は明暦3年(1657年)の建築で、年代が確定する民家では京都市内最古。市の登録文化財にも指定されています。河原家は幕末には大覚寺の典医を務め、昭和期に当主が別宅に移った後は30年間、外国の方の住まいとなっていたそうです。家は少し高台にあって石垣も美しく、大きなイチョウも絵になります。

宕陰の棚田越畑は「京都の信州」とも呼ばれているほど、山里の美しい景色が見られる場所です。特にカメラマンの間では「棚田」があることでも知られ、これからの秋にかけては棚田には蕎麦の花も咲きます。蕎麦は荒れ地に強く、まさにこうした山間地に向いている作物ですね。越畑は林業が主産業で耕地に乏しい場所であるために、斜面を少しでも活用するために棚田が発達しています。地図で見ると分かりにくいですが、航空写真で見ればその広がりは一目瞭然です。

宕陰の棚田越畑から樒原は比較的近く、樒原と水尾の間には峠があって、距離もあります。ですので、樒原に訪れるのも亀岡側からの方が行きやすいでしょう。越畑と同じく棚田が広がる地形で、宕陰(とういん)の棚田として、日本の棚田100選に選ばれています。さらには越畑と同じく「にほんの里100選」にも選ばれています。京都市で選ばれているのはここだけで、その名に違わぬ美しい山里が広がっています。

樒原それにしても宕陰(とういん)は難読です。集落は愛宕山麓にあり、愛宕山の山陰(やまかげ)という意味なのでしょう。樒原の名は、愛宕神社で現在も授与される「樒」が群生する原だったところからきています。平安時代の歌にも、「愛宕山 しきみの原に雪つもり 花つむ人の 跡だにぞなき」と詠まれるほど、古くから知られていた場所です。ここでいう「花」とは、樒のことと思われ、愛宕山に登るとかつて樒を売っていた建物が「ハナ売り場」として残されています。水尾の女性は、かつてこの樒を売りに毎日愛宕山に登っていたといいます。山里での貴重な現金収入源だったのでしょう。

宕陰の棚田樒原の棚田はおよそ800枚。樒原は現在では正式な地名ですが、かつては通称で、正式には原村と呼ばれていました。そしてこの棚田は、鎧の板を糸でつないだように見えることから「原の鎧田」と呼ばれています。実際に現地に立ってみると、なるほどと思う光景です。兜の錣(しころ)にも似ているように感じます。言い得て妙ですね。棚田は、春には水をたたえ、初秋には黄金色に染まり、冬は雪景が美しく、そして夕日も綺麗。いずれの時期もカメラマンを惹きつけています。なお、私が訪れた6月14日では、越畑と同じく、樒原もすでにほとんどの棚田で田植えが終わっていました。

宕陰の棚田越畑も樒原も周りの山がそれほど高くないため、見晴らしもよくて広々とした開放的な印象があります。空も広く、天空に広がる山里といったイメージです。なかなか訪れる機会のない場所ですが、時期を見て何度も訪れたくなる場所です。機会を得て他の時期の風景もお届けできればと思います。

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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2016」監修。特技はお箏の演奏。

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