白沙村荘は、日本画家の橋本関雪が1913年から30年以上の時を費やして築いた庭園です。当初は水田、それも土地が低い深田のような場所が広がっていたそうですが、小さな石や小さな木でさえも他所から運んでくるなど苦労をして造成されて行きました。当初の庭の取り柄と言えば、白川の流れが運んできた「白沙(砂)」だけ。そこから白沙村荘と名付けられています。庭は当初から今の広さだったのではなく、7回ほどにわたって買い足され、南へ西へと拡大されていきました。当初の敷地は母屋と池の部分であったといいます。メインの建物や池でありながら、庭園の中心にはないのはそういった事情があるのです。
橋本関雪は16歳の頃に画家を志し、早くから画才は認められていましたが、困窮した時代も長く、大正時代に入ってようやく評価を得始めたころに、白沙村荘の造営をはじめました。ちょうど新居に移った時に、政府から寒山拾得の絵を買い上げたいと電報が入ったそう。まさに白沙村荘は、関雪の画家としての栄達に伴って整えられていった場所だといえるでしょう。
現在約1万平方メートルにも及ぶ敷地の中には、存古楼と呼ばれる関雪の大画室や、茶室、持仏堂などの建物が点在し、庭園には平安から鎌倉期に制作された数々の石造美術品が配されています。石の配置ひとつに至るまで関雪の好みが随所に反映された、特有の空間が広がっており、関雪が晩年に「庭を造ることも、画を描くことも一如不二(いちにょふじ)のものであった。」と語っているように、相当な力を入れて造営されています。このように白沙村荘は、日本画家が自らの美意識をもって設計をした珍しい庭であることから、国の名勝にも指定されています。
2014年には新しい美術館が完成し、大小3つの展示室の中で関雪の作品の展示をはじめ、折々に企画展も行われています。この新美術館ができたことで白沙村荘は大きく変化しました。まずは料金が庭園と美術館を含めて1300円になったこと。高額ではありますが、その分人が少なく、静かにお庭を散策できます。さらに新美術館の2階テラスからは、雄大な大文字山と眼下の庭園を望めるようになったことです。こうして大文字山を優美に臨めるスポットはなかなかありません。素晴らしい光景だと思います。先日訪れた際には、桔梗や紫陽花の花が咲き、ハンゲショウもまだ綺麗でした(現在は見ごろを過ぎている可能性もあります)。よろしければ白沙村荘に足を延ばしてみてください。
「京ごよみ手帳2019」訂正のお知らせ
・P39の三十三間堂「楊枝のお加持と大的大会」の日程が1月14日となっていますが、正しくは「1月13日」です。
・P225の「京都御所」のデータで、2番の休みは「月曜(祝日の場合は翌日)・年末年始・臨時休あり」です。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
第15回・第14回京都検定1級(合格率2.2%)に2年連続の最高得点で合格。気象予報士として10年以上。京都検定マイスター。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳」監修。特技はお箏の演奏。