蹴上から三条通を山科方面に越えるのが日ノ岡峠。東海道の難所として知られた場所です。旧東海道は、交通量が多い現在の三条通から1本南側の山沿いを通っており、酔芙蓉が綺麗な大乗寺の前の道がそれに該当します。そして大乗寺のすぐ南にあるのが「亀の水不動尊」です。近年、細い道と階段が整備されて、横の私有地との境界が明瞭になりました。
亀の水不動尊は、元文3(1738)年、日ノ岡峠の改修に尽力した木食(もくじき)僧・正禅(養阿上人)が、峠の途中に結んだ梅香庵(木食寺)の名残とされ、その庵は往来の人々の休息所を兼ねて牛馬の渇きをいやすために井戸を掘り、湯茶で旅人を接待したとされます。旧東海道のほうを歩くと山科側は今でもきつい坂道で、往時の日ノ岡峠の険しさを体感できますが、木食正禅が改修する前は、さらに厳しい場所でした。
真如堂のホームページより引用をさせていただくと『改修前の日ノ岡峠は、車馬が通行する道と人が通行する道とに分かれ、車馬の道は深くえぐられて、人が通行する道とは所によっては2メートル近い段差が生じ、雨が降るとそこに水が溜まって車馬を悩ませていました。上人はこれを改善するために、峠の頂部分を60間に渡って掘り下げ、その土砂を麓に敷いて緩やかな勾配としました。そして、道の表面に「車石」を敷設し、車馬によってえぐられないようにしました(引用終わり)』。さらに、人々のためのお助け小屋のような役割で梅香庵(木食寺)を開きました。行きかう人々は大いに助けられたことでしょう。
車石は溝のついた石で、ここに重い荷物を運ぶ牛車の車輪を進ませれば雨の日でも沈むことなく進むことができるというもの。一種の軌道といえる石です。大津から京都三条までの三里(約12㎞)に敷かれ、木食正禅より少し後の1805年に心学者の脇坂義堂らの協力で1万両の巨費を投じて本格的に敷設されたとも伝わります。現在は車石は役目を終えましたが、日ノ岡峠の頂上付近の脇や山科側に下った場所にある京津国道改良工事紀年碑の台座に再利用されて残されています。
木食正禅(養阿上人)は、京都の各地で名前が出てくる僧で、わかりやすいところでは東山の五条坂にある安祥院、一乗寺の奥にある狸谷山不動院、真如堂の本堂南にある金属製の阿弥陀如来像、七条大橋の西にある松明殿稲荷神社で名前が出てきます。六阿弥陀巡りも発願しました。京都に詳しくなってくると様々な場所で出会い、そして江戸時代に人々のために尽くした姿が浮かび上がってきます。いずれその事績についてもブログで書くことができればと思います。
現在の亀の水不動尊には、往時のものと思しき亀の石像があり、口からは水が流れ落ちています。往時の水は「量救水」と名付けられ、往来の多くの人々を救いたいとの思いが込められていたのでしょう。亀の石像から水が落ちることから「亀の水」とも呼ばれ、のちに不動尊が祀られました。なお、量救水と刻まれた手水鉢は現在は東京の椿山荘(山縣有朋の別荘)に移されています。2008年の京都新聞の記事では、『ここ数年で、少しずつわき水が戻り、今は水道水の「助けを借りて」流れを守る。』と書かれていますが、今はどうでしょうか?水は今も絶えず流れ、現在も信仰の場所として大切にされています。お近くに行かれる際には訪れてみてください。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。8年ぶりに受験した第13回京都検定で再度1級に合格し「京都検定マイスター」となる。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2018」監修。特技はお箏の演奏。