8月16日は五山送り火(ござんのおくりび)がありました。お盆の間に戻ってきた先祖の霊を送る行事です。今年は鳥居形を広沢池から望んできました。
お盆の締めくくりに行われる五山送り火。正確には観光行事ではなく、お盆にお迎えをしたご先祖様の霊「お精霊(しょうらい)さん」が迷わず冥界へと戻れるようにと夜空に灯す祈りの炎です。庶民の信仰心から生まれ、長年受け継がれてきた京都の大切な伝統行事です。五山の中でも最初に炎が灯されるのが東山の「大」で、20時の点火のあと、5分おきに「妙法」「船形」「左大文字」「鳥居形」と、各火床が灯っていきます。それぞれの送り火は、その炎が灯る山麓の集落の人々によって維持されています。
点火順は現在は最も東にある「大」から最も西の「鳥居形」まで、極楽浄土に向かって順に西へと灯っていくとされますが、昭和30年代は「大」が最後に灯っていました。火床の数も時代ごとに異なっていたり、お盆以外にも灯されるなど、送り火の細かい方法は時代によって変化をしています。
送り火の中に、今はなくなってしまった文字がありますが、やはり維持が大変だからに他なりません。各送り火は「保存会」を組織して、補助金を受けられるようになっていますが、それでも維持にはお金がかかります。また、真夏に松明を山へと運ぶのも大変な労力です。それ以前に参道の維持を常日頃からしておかなければ暗い中では足もとが危険ですし、遠くからよく見えるようにと草刈もしておられます。灯る炎を見ながら、先祖や亡き家族への思いのみならず、守って下さっている方々への感謝の思いを持たずにはいられません。今後も永く受け継がれていってほしいと思います。
さて、鳥居形の由来は諸説ありますが、一説には愛宕神社の鳥居の形を表しているとされ、一帯の地名は鳥居本(とりいもと)と呼ばれて、愛宕神社の一之鳥居もあります。仏教行事の送り火に鳥居の形があるのも面白いですが、これは愛宕神社がかつては白雲寺というお寺であったためで、江戸時代までの神仏習合の観念ではお寺に鳥居があってもなんの不思議もありませんでした。
鳥居形の火床の数は108つ。この数字は人間の煩悩の数で、炎によって煩悩を焼き尽くすという意味が込められています。鳥居形の火床は松明を差しこむ方式で、火のついた松明を持って走る様子は「火が走る」といわれます。すぐに火がつくように、松やにがたっぷりある松を選んで松明にしているそうで、その火床の形も試行錯誤を重ね、火の勢いがよく、しかも長く燃えるように作られています。
広沢池では灯籠流しが行われます。穏やかな水面に浮かぶ色とりどりの灯籠と遠方に見える鳥居形が本当に美しく、見ている者の心を打つ光景です。風向きによって岸に固まってしまう年もありますが、今年はほどよく水面に広がってくれたでしょうか。私も先祖を思い手を合わせて来ました。今年も無事に送り火が点り、京都の真夏は終盤へと入って行きます。
ガイドのご紹介
京都検定1級に6年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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