3月15日に、清凉寺で嵯峨お松明式があり、勇壮な炎が夜空を焦がしました。
3月15日は、お釈迦様が入滅した(亡くなった)日とされる涅槃会(ねはんえ)です。実際にはお釈迦様の入滅日は旧暦の2月15日とされ、新暦の現在は1か月遅れの3月15日頃に行われています。東福寺や泉涌寺、真如堂、本法寺などをはじめ、清凉寺でも涅槃図が公開されました。今年は梅の開花が遅くなったため、梅香る涅槃会となりました。河津桜も見ごろでした。
清凉寺のお松明(たいまつ)は、高さが約7mもあるものが3本も並んで夜空を焦がし、鞍馬の火祭り・五山の送り火と並ぶ京都三大火祭りのひとつに数えられます。3本のお松明は、それぞれ早稲(わせ)・中稲(なかて)・晩稲(おくて)と、稲の種類を現わし、燃え加減によってその年の出来不出来を占います。また、お釈迦様の荼毘を偲ぶ意味あるとされます。松明を束ねている輪は、天狗の顔を表していて、長く伸びた結び目は天狗の鼻。じっと見ていると、確かに天狗の鼻に見えますね。天狗に天気と豊作を願うそうです。また、その数は12個で各月を表していて、うるう年には13個になります。
また、お松明とは別に、13本の高張り提灯の高低を決めるくじ引きが行われます。この提灯の高低は、米相場の高低を現わしていて、くじ引き後には今年の高さに提灯も並べられて本堂に掲げられます。提灯が高く掲げられる方がなんとなくよさそうに感じてしまいますが、高い月には米相場が高騰するので、むしろ低い月が庶民には喜ばれたのでしょうし、売る方はやはり高い方がよいと感じることでしょう。こちらも13か月分の提灯があり、うるう月の名残が見られます。一方で、米相場を占ったのはすでに過去の話。今は「株価」の高低を占っているとする文献もあります。とすると、米相場とは反対に高い方が喜ばれそうです。
お松明が点火される夜までの間、断続的に嵯峨大念仏狂言も行われます。最初の演目は15時半から。地元の方が練習を重ねて披露をされています。境内にはお店もたくさん並んで子どもたちも集まってきました。嵯峨大念仏狂言は声のない演劇ですので、鐘の音や足で床を踏みならす音、そして観客の笑い声が響きます。昔からこうしてゆっくりと時間を過ごしながら、点火の時を待ったのでしょう。今年は狂言堂の修復のため、本堂の東側で行われました。
さて、お松明式を見るには、風下に立たないことが何より大切。火が点くと非常に勢いよく上がった炎が、大量の火の粉を飛ばします。風下はまともに火の粉をかぶり、熱風も吹き荒れますので、とても立っていられません。境内は風が舞う傾向がありますが、雲の流れを見るなどして安全方向を確保して下さい。例年であれば、仁王門のある南東方向に風が流れます。
20時を過ぎ、まず提灯行列が松明の周りを歩きます。そして、松明とは別の護摩木に点火され、そこから種火が取られます。藁に点けられた種火は、棒で松明の上から投下。実は松明の内部は空洞になっているので、上から種火を落とすと内側から一気に火が燃え広がって行きます。火は瞬く間に大きな炎となり、勢いよく夜空を焦がしていきました。
今年は例年以上に激しく、一気に松明の倍ほどの炎となって、3本ともが一体となるように燃え上がっていきました。やはり火の粉がものすごく、風下へは粒の大きな赤い雪のように降り注ぎます。風下で見ていた方はかわいそうでしたが、避難せずにはいられないほどの勢いです。今年はお松明式までに晴れて乾燥した日が続いたため、地元の方やお坊さんが「見たことがない」というほど、よく燃えました。「何から何まで豊作」との声も聞こえてきます。
やがて炎はゆっくりと収まっていきました。今年はわずか5分ほどで、あっという間に燃えてしまいました。清凉寺の松明は、倒さずにそのまま燃え尽きるのを待ち、最後は消防団の方が消火をされていました。京都に春を告げる嵯峨のお松明式。京都三大火祭りにふさわしい迫力があります。勢いよく燃えている様子は動画でもご紹介します。機会がありましたら、ぜひ現地でご覧になってみてください。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。8年ぶりに受験した第13回京都検定で再度1級に合格し「京都検定マイスター」となる。第14回京都検定1級(合格率2.2%)に最高得点で合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2018」監修。特技はお箏の演奏。