下鴨神社 流鏑馬(やぶさめ)神事 2012年


3日は、下鴨神社の糺(ただす)の森で、葵祭(賀茂祭)の神事の一つ、流鏑馬(やぶさめ)神事が行われました。勢いよく疾走する馬の上から、小さな的を見事に射ぬいて行きます。

5月前半は葵祭の行事が目白押しです。前回は、上賀茂神社の競馬(くらべうま)をご紹介しましたが、今回は下鴨神社の流鏑馬(やぶさめ)神事です。流鏑馬神事は矢を放って的を射ることで、祭りの道中を清めるための神事です。走る回数は10回以上行われますが、流鏑馬神事として公家装束で行われるのは最初の3回。正確にはこれが平安以来の様式を伝える日本で唯一の流鏑馬だそうで、以降は武家の様式(騎射挟物:きしゃはさみもの)で行われます。

賀茂社の流鏑馬神事の歴史は非常に古く、飛鳥時代には行われていたとされ、698年(文武天皇2年)には既にあまりの見物人の多さに禁止令まで出されるほど人気を集めていました。平安京が出来る前からのたいへんに由緒ある神事です。明治時代に一度中断しますが、現在の流鏑馬は昭和48年に式年遷宮の記念行事として復活し、小笠原流の皆様によって奉納されています。ちなみに「流鏑馬(やぶさめ)」という難解な言葉は、馬を馳せながら矢を射る「矢馳せ馬(やばせうま)」が語源とされ、音のなる矢である鏑矢(かぶらや)を射たことから「鏑」の文字も入っています。

流鏑馬神事は交通的に行きやすい下鴨神社で行われることもあって、多くの人で賑わいます。椅子に座ってじっくりと見るのなら有料席がお勧め。ただ、販売開始は正午からですが11時前にはすでに長蛇の列ができます。有料席の価格は葵祭のパンフレット付きで2000円と、一般社寺の拝観料よりは少々高め。ただ、葵祭の行列は1回の運営費がおよそ2900万円もかかるそうで、雨で衣装が濡れてしまえばクリーニング代などで別途600万円から1000万円が必要になるそうです。江戸時代は徳川家という大スポンサーがいましたが、近年は不況で市からの補助金や企業からの協賛金も減っています。下鴨神社もこうした運営費を負担しており、有料席の収益はこうした葵祭の運営費に充てられていることになります。祭りには大変なお金がかかることが知れ渡っているかはわかりませんが、流鏑馬が始まる頃には全ての席が完売となりました。ちなみに、葵祭のパンフレット単独ならば800円です。

どの的の辺りで見るかも結構大切なポイントです。的は1の的から3の的まで3つありますが、1の的は馬がまだスピードに乗りきっていない分、的中率が高いです。2の的はバランスがよい場所で馬場殿もあり、馬上拝礼などの儀式的な所作も見ることができます。3の的は最もスピードに乗って勇ましいのですが、その分、的への的中率が低くなります。今年は3の的でも多くの的中が出ましたが、年によってはほとんど当たらないこともあります。望遠のきくカメラをお持ちの方は、3の的の奥から馬場を走る姿を狙うのが場所取りの定番のようです。今回の私は2の的に構えました。儀式開始は13時、馬場入りの目安は13時半頃、出走は14時頃となっています。無料で見るための場所取りは、3の的周辺は遅くとも11時前には行った方がよく、続いて2の的、1の的の順に埋まっていきます。

さて、最初に行われる公家様式の流鏑馬は、的も武家様式の騎射挟物(きしゃはさみもの)より大きく、衣装も公家の衣装で行われます。今年は最初の馬から見事に全ての的に的中となり、幸先のよい素晴らしいスタートを切りました。しかし、3番目の方が2の的を射た後に落馬をしてしまうアクシデントも。場内が悲鳴に包まれ騒然となる中、騎手の方は無事に立ち上がって一安心。馬上で手綱を放して的を射るため、危険とも隣り合わせの神事です。騎手は木馬でみっちりと練習に練習を重ねてから馬上で訓練をするそうですが、馬のスピードに負けないようにするのが難しいのだそう。最初の3回の流鏑馬が終わると、馬場殿の前で褒賞の「禄(ろく)」を受け取ります。これを上手にたすき掛けして、喜びの舞(拝舞)を左右左の順で舞います。この禄の色は3名それぞれに異なっています。

騎手(乗尻)は疾走する馬の上で手綱を放し、矢を持ち、弓を構え、正確に的に当てる。これらの動作を的ごとに繰り返すわけで、的と的の間は100mほどあってかなり開いてるように見えますが、馬がスピードに乗っている時は、わずか4秒程で次の的がやってきます。ほんの少しのミスもなく、まさに100%のパフォーマンスが出来ないと全て的中させることはできないそうです。3つの的を全て当て、解説の方から「皆中(かいちゅう)!」と声が上がると、会場も大きな拍手と歓声で称えていました。これぞまさに名人の技!!当たり的は縁起が良いものとして、1枚3000円で、すぐさま配布されます。各々好きな欠けらを選んで、神社の方に住所や名前を書いて頂き持ち帰っていました。こちらも葵祭の運営費に充てられるそうで、やはり人気を集めています。

この素晴らしい流鏑馬の様子は是非写真にも収めたいもの。まず大前提として、フラッシュは厳禁!!馬は臆病な生き物ですので驚いて客席に…ということもあり得るそう。騎手の方は手綱を持っていませんので、すぐには馬の制御もききません。カメラはオート設定で暗いと勝手に光ることもありますので、予め発光禁止にしておきましょう。フラッシュが使えないとなると、馬のスピードがかなり速いため、普通にカメラを構えて撮っても馬がブレた写真となります。ブレを避けるためにはシャッタースピードを早くしておく必要があります。しかし、糺の森は「森」だけあって光量が少なく、ISO感度を上げて絞りは開いて…など、多少のカメラ知識があったほうがよいでしょう。この日はほとんどが曇りで日差しが無く、なかなか撮影には厳しい条件でした。動画の方が自然に撮れたかもしれません。それでは、馬上から見事に的を射る様子を動画でお楽しみください!

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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