仙洞御所 池泉が広がる上皇の庭


先日、京都御苑内にある上皇の御所・仙洞御所を参観してきました。

今回から順番に、仙洞御所・修学院離宮、そして桂離宮をご紹介していきます。これらの離宮や御所は宮内庁が管理をしており、参観には必ず事前の申し込みが必要です。遠方の方の場合は往復はがきによる郵送が一般的でしたが、最近はオンライン上での申し込みもできるようになりました。そして裏技とも言えるのが、京都御苑内にある事務所に直接申し込む「窓口申込」。これは別枠で定員があり、空きがあれば前日まで受け付けて頂けます。

窓口申込には、参観者全員の住所氏名が必要ですが、窓口に行くのは代表者のみでよいため、遠方の方でも京都近郊の知人に頼むという方法も可能です(ただし、参観日に代表者は必ず行く必要があり、最大で4名までしか申込みできません)。申込や参観可能日については細かい取り決めがありますので、詳しくは宮内庁の参観案内をご熟読下さい。なお、受付場所は広い京都御苑の北西側、乾御門から南東の場所にあります。

今回はいずれも晴れの日を狙って申し込んでみました。春は空に浮遊物が多いため、色が白っぽくなるなることが多いですが、仙洞御所と修学院離宮では真っ青な空に出会うことができました。さて、仙洞御所は京都御苑の中にあります。現在は、皇位を退かれた上皇の御所である仙洞御所と、皇太后の御所である大宮御所とが一緒になっていますが、建物の見学はなく、参観は仙洞御所のお庭となります。

現在の仙洞御所は、江戸時代の初めに後水尾上皇の退位に備えて、江戸幕府が小堀遠州に命じて造営したもので、残念ながら建物はたびたびの火災に見舞われて茶室を除いて基本的には残っていません。ただ、小堀遠州が手掛け、後水尾上皇をはじめとする歴代上皇が改変した広々とした美しい庭は現在に伝わっています。仙洞御所は京都でも有数の広いお庭で、池泉回遊式庭園が好みの方には、是非にも参観頂きたい場所です。

参観の入り口は大宮御所の門から。大宮御所は後水尾天皇の皇后である東福門院の御所として造営されました。東福門院は一昨年の大河ドラマ「江」の娘・和子です。現在の大宮御所は、孝明天皇皇后の英照皇太后の御所として再建されたもので、明治の世になって天皇家が東京に移った後、大正時代に内部を洋風に改装し、現在も天皇陛下が京都に行幸される際には利用されています。大宮御所の南には紅白の梅が植えられていますが、私が訪れた日は開花にはまだ早い時期でした。

大宮御所から塀を抜けると仙洞御所の庭に入り、北池の美しい光景が広がります。東山を借景に奥行きが深く、四季を通じて自然の美しさを感じられる光景です。京都の真ん中にこれほどのお庭が残されていることが素晴らしいですね。北池は、元は大宮御所の庭園でしたが、江戸時代半ばの改変で仙洞御所の南池と繋がりました。

北池の北西には阿古瀬淵(あこせがぶち)があり、現在は石橋がかかっています。かつてこの地には紀貫之の邸宅があり、そのことを示す石碑も建てられています。池の北側をぐるりと歩いていくと、どんどん景色も変わって来ます。なお、途中にある鎮守社が並ぶ丘は、下から見上げるだけで参拝は出来ません。鎮守社には、皇室の祖先神を祀る伊勢神宮や藤原氏ゆかりの春日社に加え、上賀茂・下鴨神社や石清水八幡宮といった京都にゆかりの神も祀られています。

土橋を渡って北池の中島に渡り、さらに八つ橋と呼ばれる石橋を渡ると、木々に覆われた林に入ります。この場所から「そぞろ流し」といわれる清流が北池に流れ込み、南池の雄滝に対応して、雌滝とも呼ばれています。北池の南側を進んで行くと、紅葉橋が現れ、渡った先が紅葉山。その名の通り、初夏には楓の新緑が、秋には美しい紅葉が見事な場所です。

紅葉山から南を向けば、南池が現れます。やはり眺めは雄大で、藤棚のある石橋「八ツ橋」が中島へと架かっています。南池の北東側には雄があり、平安時代に小野小町が大友黒主の草紙を洗ったという、草紙洗の石もあります。ただ、八ツ橋からの遠景になりますので、近くで見ることはできません。仙洞御所のお庭はずいぶんと改変されていますが、南池に突きだす出島の東側にある石の護岸は小堀遠州が造営した当時のものといわれ、武家らしい荒々しさを伝えている個所でもあります。現在の仙洞御所のお庭は創建当初からは大幅な改変が加えられており、やはり武家の造営したお庭は、皇族の好みには合わない部分もあったのかもしれませんね。

南池で特徴的なのは、広大な州浜です。粒のそろった楕円形の石が綺麗に敷き詰められていて、石一つに一升の米を与えて集めさせたといわれ、一升石ともよばれています。この州浜の周りも、立つ場所によって風景の印象が変わっていきます。仙洞御所のお庭は本当に様々な景色があり、どの場所に立っても美しい。歴代の上皇が手を加えてきた美が凝縮されていますね。

八ツ橋と中島を渡り、仙洞御所の南まで行くと現れるのが醒花亭(せいかてい)です。数寄屋造りの建物で、稲妻型にデザインされた障子が印象的です。仙洞御所はほとんど建物がありませんので、その中では古を偲べる場所でもあります。

古を偲べるといえば、醒花亭の近くにある栄螺(さざえ)山。小高いこの場所は、なんと古墳だといわれています。このような平たん地に、古墳が残っているというのも驚きですが、いつの時代のものかがたいへん気になるところです。

南池の西側を歩いて行くと、柿本社があります。柿本人麻呂を祀った神社で、1788年の天明の大火で御所が焼けた際、火災を憂えた光格天皇が建立しました。なぜ、柿本人麻呂を祀ったかといえば、「ひとまろ」が「火止まる」に通じるからだそうです。現代でこそ、火災は稀な出来事ですが、かつては火災はたびたび起こる恐ろしいものでした。最後はやはり神頼みだったのでしょう。

さて、さらに南池の西側を北上し、紅葉山・蘇鉄山を過ぎると北池のほとりに戻って来ます。一周してきたわけですね。最後に茶室の又新亭(ゆうしんてい)が立っています。この茶室も数々の火災で焼失し、現在の建物は明治時代に近衛邸にあった茶室を移築したものです。簡素な茶室ですが、お庭にも溶け込んでいます。また、又新亭の周りにある柊(ひいらぎ)は、葉がトゲトゲのものと、トゲが無いものとが混ざっているちょっと不思議な木となっています。

こうして、時間的には1時間半~2時間かけてたっぷりと仙洞御所を楽しむことができます。普段は塀に囲まれて全く中を覗い知ることはできませんが、京都屈指の広さと美しさを持つ庭園です。職員による詳しいガイドも付いていますし、室内を含め写真も撮ることができます。日ごろの喧騒を離れ、非日常を感じられる空間でもありますので、機会がありましたら訪れてみて下さい。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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