在原業平邸跡の自動販売機


京都は1200年の歴史の街。道を歩けば歴史にぶつかります。そんな京都だからこその自動販売機に、在原業平(ありわらのなりひら)モデルのものがあります。

などと期待させておきながら、ものは至って普通の自動販売機。違うのは季節ごとに在原業平の歌が掲げられていることです。場所は、間之町(あいのまち)通と御池(おいけ)通の交差点付近。実は、自動販売機のとなりには、在原業平邸宅跡の石碑が立ち、それにちなんで業平の歌が掲げられているのでしょう。

在原業平 春の歌在原業平は、平安時代の歌人で、当時から歌に秀でたと称された六歌仙の一人です。美男だったともいわれ、数々の逸話も残した人物。「伊勢物語」の主人公のモデルとも考えられています。私も昔、古文の授業で伊勢物語を習った時に「からごろも 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」と、5・7・5・7・7の頭に「かきつばた」を詠み込んだ名歌は、すごいなと思った記憶があります。また、桜の時期になれば「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」の歌を思い出します。感受性の豊かな歌が多いですね。

在原業平の歌京都では、西山にある十輪寺が、通称「なりひら寺」と称されています。在原業平は晩年にこの寺で過ごしていたとされ、かつて恋仲であった藤原高子(たかいこ)が大原野神社へと詣でる際に、塩を焼き紫の煙で思いを彼女に贈ったとされます。余談ですが、気象予報士的にはこの「紫の煙」が気にかかります。普通に考えて煙が紫になるはずはなく、環天頂アークの類ではなかったかと感じます。業平は桓武天皇の子孫ではありますが、昇進の流れからは外れた人物。かたや高子は藤原氏の大切な娘で、後に清和天皇の妃となって陽成天皇となる男子を生みます。二人の恋は当時の政界の主流であった藤原氏からは許しがたいもので、叶わぬ恋であったのです。煙に思いをのせる、なかなかロマンチックな逸話ですね。

在原業平邸跡この二人のエピソードでもう一つ有名なのは、業平が若き日の高子の元へ通い続け、ついに高子を盗み出して闇夜に紛れて逃げて行くというお話です。やがて芥川という場所にたどり着くと、高子は草に降りた露を見て「あのキラキラ光るものはなんでしょう?」と業平に尋ねます。しかし業平はその問いかけには答えずに、やがて夜も更けて雷雨ともなってきたので、荒れた蔵に入り込みました。業平が「早く夜が明けてほしい」と思っている間に、蔵にいた鬼によって高子は食べられてしまう・・・といったお話です。

雷雨が過ぎ去って、高子がいないことに気がついた業平が詠んだ歌が「白玉か 何ぞと人のとひし時 つゆとこたへて 消えなましものを(彼女から葉の上のキラキラ光るものはなんですかと聞かれたが、そのとき「あれは露だ」と答えて、露が消えるように自分も消えてしまえばよかったのに)」として伝わります。事実としてはもちろん「鬼」はいないのですが、高子を連れ戻したのは兄の基経らで、たまたま宮中に参る最中にひどく泣いている人がいると聞いて車を止めてみると、高子だったというのがことの真相のよう。いずれにしても業平の果敢な行動には目をみはるばかりです。自動販売機の和歌を眺めながら、業平の人となりに思いをはせてみるのも面白いでしょう。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。


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