11月8日に、祇園白川でかにかくに祭が行われ、芸舞妓さんが、歌人・吉井勇を偲ぶ「かにかくに碑」に花を手向けました。
京都検定の受験者にとっては、おなじみとも言えるのが「かにかくに祭」でしょう。ただ、一般の方には何のことやら分からないかもしれません。「かにかくに」とは、大正から昭和にかけて活躍をした歌人・吉井勇が詠んだ「かにかくに 祇園は恋し 寝(ぬ)るときも 枕の下を 水のながるる」の歌に使われている言葉で、「あれこれと」「とにかくに」という意味があります。歌の意味としては、「あれこれと祇園は恋しい 寝るときも枕のすぐ下を水が流れている」といったところでしょう。
明治43年5月、吉井勇23歳(実年齢)の時、生まれて初めて得た原稿料10円を持って訪れたのが人生3回目の京都。友人と遊んだ祇園で、この歌は生まれました。祇園への大いなる感動を詠んだこの歌は評判となり、吉井勇は歌人としての地位を築いていくことになります。若き日の一首が、その後の勇の人生を開いていったのですね。勇は京都の歌を数多く残しており、各地でその歌を目にすることができます。我が家の近くにある五色の辻にある歌については、ずいぶん前にブログに書きました。
その後も祇園に通い続けた吉井勇。古希(70歳)の祝いとして、祇園白川に「かにかくに碑」が建てられました。昭和30年11月8日のことです。碑の建つ場所には、戦前まで茶屋の大友(だいとも)があり、この地で勇は「かにかくに」の歌を詠んだともされています(ただし、勇の『洛北随筆』の中では「祇園の末吉町あたり、白川に近い古びた茶屋」を訪れたとなっている)。枕の下の水とは、白川の流れのこと。大友の女将は文芸芸妓として知られた磯田多佳でした。彼女は文人との交流が深く、御池大橋の袂にある夏目漱石の「春の川を 隔てて 男女かな」の「女」も、磯田多佳を差しています。大友は、終戦直前の昭和20年3月、強制疎開で立ち退かされて姿を消し、現在は白川南通が通っています。
かにかくに祭は、吉井勇をしのんで毎年11月8日に行われ、芸舞妓さんが碑に花を手向け、手を合わせます。時間は11時から。早くから芸舞妓さんを撮ろうというカメラマンで2重3重の人垣ができています。ただ、事始めや八朔などに比べれば、まだ秩序が保たれているように感じます。
時間になると、芸舞妓さんが人垣の中に確保されているスペースに入り、順番に花を手向けていきました。花を手向けたあとに、少しだけ各方向に並んで写真を撮らせていただける場面もありましたが、正面で撮れるかは運の要素もあるでしょう。時間としてはわずかに10分ほどの行事です。行ってみようという方は、時間と心の余裕をもって頑張ってみて下さい。
ガイドのご紹介
京都検定1級に5年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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