8月20日に斎教院光福寺(干菜寺)で六斎念仏踊りが奉納されました。

京都の8月は、例年各地で六斎念仏踊りが奉納されます。いずれも「京都の六斎念仏」として、国の重要無形民俗文化財に指定されていて、民俗学的にも価値のあるものです。また、2022年には「風流踊」がユネスコ無形文化遺産に登録され「京都の六斎念仏」もそれに含まれています。

六斎念仏とは、8日・14日・15日・23日・29日・30日の六日を、悪鬼が出て人の命を奪う不吉な日であると考えて、人びとが民家などに集まって念仏を唱えた風習に始まります。主に京都近郊農村の人びとによって行われていました。やがて江戸時代になると、自分たちの村中を念仏を唱えて回るだけでなく、洛中にも出かけて、財力ある商家の店先で棚経を唱えて布施を頂くなどしました。

江戸時代の初めまでは純粋な念仏のみであったそうですが、江戸中期になると、当時都で流行していた歌舞音曲を取り入れたり、獅子舞や祇園囃子、壬生狂言の土蜘蛛など、各芸能の面白いところを取りこんで、宗教色の強いものから芸能的なものへと変化していきました。一方で、本来の趣旨は「念仏」ですので、芸能化することを嫌う一派も現れました。当時は、六斎念仏を始めるにあたって、管轄の寺院より免許を受ける決まりがあり、芸能系は空也堂、保守的な念仏系は主に干菜(ほしな)寺(光福寺)から免許を受けていました(ただし空也堂系の念仏六斎もあります)。

このように、京都近郊は同じ六斎念仏といっても、様相の異なる2種類が存在するため、民俗学的にも価値が高いとされ、国の重要無形民俗文化財に指定されているのです。現在の京都に残っているのは、ほとんどが「芸能六斎」です。唯一残る干菜寺系の念仏六斎は、五山の送り火の船形を管理する西賀茂の西方寺で、例年送り火が消えた8月16日の21時頃から行われています(念仏六斎である上鳥羽六斎念仏、円覚寺六斎念仏は空也堂系の六斎念仏)。また、六波羅蜜寺で12月後半に行われる踊躍念仏も、念仏六斎に属するものとされています。

今でも京都各地で行われている六斎念仏踊りは、地元の方々によって維持継承されています。そのため、地元では高い人気を誇り、六斎念仏が行われる時間帯になると、境内は大勢の人で賑わいます。演目は、各地で共通した名前のものが多いですが、その中身は結構異なっていますので、見比べてみるのも面白いでしょう。

干菜寺は光福寺が正式名称で、旧田中村に位置しています。秀吉が狩りの際に立ち寄った際、当時の住職が貧しかったため干菜でもてなしたことから、秀吉より干菜寺光福寺の名を賜ったと伝わります。寺は先述の通り、六斎念仏の本山のひとつとして拠点となった歴史があります。

寺が位置する旧田中村には、田中村六斎念仏保存会がありますが、小山郷六斎念仏踊りの協力を得て干菜寺で奉納が行われています。小山郷六斎念仏は、もともと都近郊の農家であった小山郷の六斎念仏で、盂蘭盆会供養として、近年は檀家の各家々に念仏踊りを奉納する棚経が復活しています。その意味でも貴重な伝統を受け継ぐ団体で、現在も地元の方の熱意によって支えられています。今年は例年通り、8月18日に上御霊神社で奉納、8月20日に斎教院光福寺(干菜寺)で奉納、六地蔵めぐりにあわせた上善寺で22日夜に奉納がありました。

この日は都合で開始時間を過ぎての干菜寺到着となり、本堂内は多くの人でいっぱいでしたが、何とかお堂の廊下から目にすることができました。太鼓を中心とする演目では、子どもさんも登場する「四つ太鼓」はやはり見入ってしまいます。

また「猿回し」の演目は、演者が猿になりきって舞台を我がもの顔で動き回る様子が面白かったです。「獅子と土蜘蛛」は、小山郷六斎念仏では獅子が善良で土蜘蛛が悪い方として演じられ、土蜘蛛の糸によって弱らされた獅子が仏様の加護で力を取り戻すという場面を表しているそうです。奉納の様子は動画でもご覧ください。
ガイドのご紹介

京都検定1級に6年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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