保津川は桂川や大堰川とも呼ばれる川で、京都市の最北部、広河原や花背に源流域を持ち、亀岡を経て嵐山へと流れ下ります。亀岡の出口からは山々に囲まれた狭い渓谷を縫うように流れる急流に姿を変え、ゴールデンウィークや夏・秋を中心に保津川下りは盛況です。乗り場はJR亀岡駅から徒歩で10分ほどの場所。トロッコ亀岡駅からは馬車や直通バスで来ることができます。そこから嵐山まで2時間弱の爽快な川下りです。
保津川といえば、開削した人物として角倉了以(すみのくら りょうい)が知られます。かつて保津川の上流域である旧京北町一帯は禁裏御料地として管理され、都の建物の造営に使うための木材を供給していました。切り出された木材は筏に組まれ、保津川を下っていったのです。この筏もまさに職人技で、杉筏の場合は12連(長さ約55m)も繋げて流して行ったそう。しかし保津峡は急流かつ多くの岩がある難所続き。筏の操作を誤って岩にぶつかり、命を落とす人もいました。
それを見かねた角倉了以は、私財を投じて6カ月かけて保津川から危険な岩などを取り除く開削工事を行います。工事に当たっては、角倉了以も自ら石割斧を振るったといわれています。こうして筏だけでな船も通れるようになった保津川。了以はその船運の収益を独占して工事費用を回収しただけでなく、大きな利益を得たといわれます。保津川で利用された船は底が浅く平らな高瀬舟。高瀬川で使われていたことが知られる高瀬舟ですが、岡山県の和気川で使われていた舟にルーツを持ち、急流に強く、底の浅い川でも使うことが出来る舟なのです。
保津川では高瀬川より先に「高瀬舟」が導入され、実は今でも保津川下りで使われている船は、ほかならぬ高瀬舟そのものです。保津川下りでも、通常であれば水のすぐ下に岩が見えているにも関わらずほとんど擦ることもないでしょう。急流を下っても大きく揺れる感覚はありませんでした。舟には酔うという心配もありますが、保津川下りに限ってはこの高瀬舟の素晴らしい安定感で、その心配はないようです。なお、今回は水位が低く、石に舟底をこすることもありました。
さて、亀岡から出発した保津川下り。はじめは比較的ゆったりと流れていきますが、亀岡を後にすると渓谷を流れる急流へと川は姿を変えます。テーマパークのアトラクションを思わせるかなりの勢いで下っていきますが、高瀬舟の力であまり強い揺れは感じません。水しぶきは前方の席ほどかかりやすいそうで、後ろの席に座った私にはほとんどかかりませんでした。
保津川は急流な場所もあれば、対象的に穏やかな流れのところもあって、それぞれが交互に出てきます。川とは不思議なものですね。下っていると、やがて鉄橋の下を何度も通過していきます。実はこれはJRの線路で、地図で見ると線路はまっすぐ伸びていて、川の方がくねっているのです。しかし下っている方の感覚では、不思議と常にまっすぐ進んでいるかのような気持ちになってしまいます。
山々に囲まれた自然たっぷりの川下り。急流だけでなく、いろいろな形の岩も見どころ。オットセイ岩やスヌーピー岩には思わず笑ってしまいました。船頭さんのお話も親しげで面白いのも魅力のひとつでしょう。こうして楽しいひと時を過ごしながら、嵐山へと帰ってきました。そして渡月橋が見えると、見慣れた光景に不思議な気持ちにもなりました。保津川下りはまさに非日常の空間へと私たちをいざなってくれます。保津川下りの公式ホームページはこちらです。まだまだ暑い京都。涼を求めて亀岡まで足を運んでみるのもお勧めです。
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吉村 晋弥(よしむら しんや)
京都検定1級に3年連続最高得点で合格(第14回~第16回、第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として10年以上。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2020」監修。特技はお箏の演奏。