災害史に学ぶことの大切さ


今年は不幸にも東日本大震災があり、防災についての意識が高まっていると感じます。私は震災12日目に現地に入る機会があり、つぶさに被害の状況を目にしました。筆舌に尽くしがたく、水の力は本当に凄まじいものでした。
私は、防災に対する持論として「災害史に学ぶ」ことが大切だと考えています。6月29日は、京都大水害があった日。京都に住むならば、この日のことを忘れてはならないと思っています。
今回は、今後書くであろう京都の災害系記事のベースとして、特に水害について長い記事を書かせていただきます。

水害は減ったのか?

近年風水害で何千人もの人命が奪われることは稀になりました。それは、堤防を高くし浚渫(しゅんせつ)も行って川底を下げ、川の許容水量を増やすことで、そもそも堤防から水を溢れさせない治水が明治以来行われて来たことによります。それまでは、遊水地を活用した「あえて安全な場所へ溢れさせる」治水が主でした。京都で言うならば、それは下鴨の糺の森周辺であり、巨椋池でありました。

しかし、現在は土地利用の観点から、大幅な遊水地を設けたり川幅を広げるというのは難しいでしょう。そして、近年の集中豪雨の多発により、堤防から水が溢れる可能性を改めて頭に入れておく必要があります。

昭和10年の大水害

昭和10年(1935年)6月29日、京都に大水害が発生しました。当時の京都市の27%が水に浸かり、鴨川や桂川の橋も流出したり損壊を受けました。四条大橋は残りましたが、流木などでダム化して水が溢れてしまい、先斗町では2階に達するほど水かさがあったそうです。また、桂川や天神川・御室川水系でも被害が甚大で、上鳥羽・下鳥羽地区や西京極・太秦・西院一帯の広範囲が浸水しました。鞍馬や大原では土石流や山崩れも起こりました。
上賀茂地区では堤防が決壊寸前まで行きましたが、水防団や軍隊までが出て必死に策を講じてなんとか食い止め、京都市街地が大きく水没することは避けられました。
この年には8月にも大雨が降り、天神川や御室川は再びあふれて大きな浸水被害が発生しました。この年の災害を受けて、大幅な河川改修が行われて現在につながっています。一時は鴨川を全く違う流路に付け変える案も出されたほどで、京阪線が地下になったのもこの年の水害が契機となっています。

水との闘いの歴史

京都の水との闘いは、ずっと昔から続いて来ました。平安初期には防鴨河使(ぼうかし)や防葛野河使(ぼうかどのがわし)と呼ばれる治水対策の官職も置かれ、有名な話では白河法皇が意のままにならないものの一つに「鴨川の水」を挙げています。また、秀吉が築いたお土居と寺町のお寺による堤防や、石垣が美しい寛文新堤なども遺跡が残っています。烏丸御池周辺の発掘では、洪水による堆積層が約2mもあったそうです。

確かに近年は治水技術の発達により水害は減っています。今ならば昭和10年の水害時と同じ雨量が降っても、溢れることはないでしょう。しかしだからと言って、水害は完全に克服されて過去のものになったかというとそうではありません。まだまだ戦いの途中なのです。例えば、東海豪雨クラスの雨が降れば川は溢れてしまいます。100年・200年の確率では現在の治水技術を超える水害が起こることもあるのです。
しかし、数十年程度水害がなければ皆が忘れて行ってしまい、そこには必ず油断が生まれます。だからこそ災害史を学び、過去の教訓を追体験することが大切なのです。

浸水する地域の特徴

鴨川流域で100年に1回の雨量(3時間122mm)を想定した鴨川・高野川の浸水想定区域図が公表されていますので、確認をお勧めします。
水はとても正直で、土地の低い場所に流れます。ではどこが土地が低いのか?まずはそれを知っておきましょう。縦では北大路と東寺の五重塔(55m)の高さが同じと言うのは有名な話ですが、横も結構違います。例えば、2万5千分の1地図で御池通の高さを比べると、市役所前では44mですが、わずか1.5km離れた二条城前で38mまで下がります。ビル2-3階分も違っています。
個人の敷地の範囲を超えた土地の起伏は簡単には変えられません。つまり、過去の災害での浸水域では、次もまた水に浸かる可能性が高いのです。パリのセーヌ河沿いでは、家を買うとき・借りる時には業者側に「洪水履歴」の提示が義務付けられているそうです。日本も本来はそうすべきだと私は思いますが、現時点では自分たちで情報を得て検討するしかないでしょう。

地名も参考になることがあります。例えば「河原町(川原町)」。京都で河原町と言えば四条河原町のことですが、実は鴨川沿いの地名を見ると、たくさんの「河原町」があることに気が付きます。上賀茂・小山・下鴨・吉田・聖護院・深草・上鳥羽・竹田など京都の知られている地名を冠に付けた「河原町(川原町)」があるのです。河原町とはもとは河原だった場所で、土地は低くて浸水しやすい。例えば、そこに住むと言うことは水が溢れた時にはそれなりの覚悟が必要になってきます。水を連想する地名は由来を調べてみてもよいでしょう。

短時間強雨による浸水被害

短時間の集中豪雨による水害はほとんどニュースにならない割りに、受けた人の被害は悲惨です。床上浸水ともなれば、家電製品はほぼ全てゴミになり、汚泥による悪臭や不衛生などで消毒は必須、簡単には住めません。都市の排水機能は1時間に50mm程度を想定していますので、それを超えればどこかに溢れるしかないのです。下水から水が逆流してトイレから水がわく、マンホールから水がわくということもあります。
特に近年多発する短時間の強雨では、中小河川の容量を超え、ごく狭い範囲で浸水してしまうことがあります。その分、水が引くのも早いといった特徴もあります。家の周りの河川の特徴もよく見ておきましょう。

大雨時に参考となるもの

以下、大雨時に参考となるページへのリンクを記載します。

  • 気象庁 警報・注意報 → 大雨の見通しや土砂災害警戒情報などが分かります。ただし、これも人間が出しているので大雨が降り出してから出ることもよくあります。出ていないから安心ではなく、必ず「実況」を重視して下さい。
  • 川の防災情報 → 河川水位とアメダスに載っていない雨量も分かります。川が心配な時は現地へ見に行くのではなく、まずこれを見ましょう。避難判断水位なども分かりやすく出ています。だだし、水位は必ず「10分毎」で見て下さい。基本設定が「1時間毎」になっているという重大な欠陥があります。ほんの10分で大幅に水位が上がることもよくあります。
  • 避難勧告 → 避難勧告は市のホームページに記載されます。問い合わせをすればメールで届けてもらうこともできます。
  • 気象レーダー → レーダーを日々見ていると、予報士でなくとも様々な経験知が増えて行きます。慣れてくれば見た瞬間にその下で起きていることが分かるようになるでしょう。上達のコツは、一つのサイトのレーダーを見続けること、必ずアメダスで実況値と見比べること、レーダー運用情報に注意することです。

京都旅屋では折を見て、京都の災害史を学べるツアーも企画していきたいと思います。また、災害史を学ぶ参考文献としては「京都の治水と昭和大水害」という本がおすすめです。最近出たばかりの本で、是非ご一読いただきたい一冊です。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として9年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。散策メニューはこちらから

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