5日には城南宮で釿始式(ちょうなはじめしき)が行われました。
城南宮は、平安遷都の折、国土の安泰と都の守護を願って創建された神社で、ご祭神は国常立神(くにのとこたちのかみ)、八千矛神(やちほこのかみ)、息長帯日売命(おきながたらしひめのみこと)です。国常立神は、古事記では神世七代(かみよななよ)の最初に現れ、国土・大地の形成にかかわる神様です。神話の世界では、日本の大地も神によって造られており、国常立神はまさにその根幹とも言うべき神なのでしょう。遷都時に都の南方に祀られたのも頷かれます。
八千矛神はいわゆる大黒様のことで、その武神としての力をあらわしています。辰年・猿年の守り神として、今年おススメの神社に城南宮を挙げている記事も見かけました。下鴨神社の干支の神社「言社(ことしゃ)」でも、同じく八千矛神が辰・猿年の守り神として祀られていますね。息長帯日売命はいわゆる神功(じんぐう)皇后のことで、後の応神天皇を身ごもった状態ながら生まれないようにと腰に石を巻き、海を渡った話で知られています。奈良の近鉄平城駅の近くにある五社神(ごさし)古墳は神功皇后の陵墓とされており、2008年に陵墓としては初めて公式に考古学者の調査が入った古墳として注目を集めました。それにしても、城南宮に祀られている神々はなかなか格式が高いと言えるでしょう。
他にも城南宮は、方除けの神社としても有名で、平安末の院政期には壮大な鳥羽離宮もありました。今年の大河ドラマ、平清盛の時代に大いに栄えた場所だったわけです。当時の離宮の築山で「秋の山」と呼ばれる土盛りが現在も近くの公園に残っており、城南宮神苑(源氏物語花の庭)の「春の山」は、その「秋の山」に対応して名付けられました。往時をしのんで周辺を散策してみるのも面白いでしょう。
さて、城南宮はまた、建築の守護神としても信仰されています。釿始式(ちょうなはじめしき)は、建築工事の安全、ひいては企業・会社の安全と繁栄を祈願して年始めに行われている行事です。この神事では、一本の大きな柱を切り・削り・仕上げる工程を、様々な昔ながらの道具を使う所作をもって表します。ただ実際には切ったり墨を塗ったりはしません。最初は鋸(のこぎり)、柱を切ります。次に指金(さしがね)が登場、二人で糸を張って寸法を測り、墨を入れます。続いて儀式の由来ともなった釿(ちょうな)、反った刃(やいば)で木を削る道具です。柱の三カ所を削ります。最後に槍鉤(やりかんな)。木材の表面を整えます。
大工道具には刃物を使うものが多く、中でも釿(ちょうな)は「手斧」とも書き、石器時代から使われたとされる古い道具。手で体の方へと引っ張って木を削ります。つまり一歩間違うと自分を傷つけてしまう特に危険な道具。実際に昔の大工さんの脛には、誤って切ってしまった傷の一つや二つはあったそうです。この神事の名前が、鋸(のこぎり)始式でも槍鉤(やりかんな)始式でもなく、釿(ちょうな)始式であるのは、怪我をすることのないようにという、強い思いがあるのかもしれませんね。手に道具をもって神事を担当しているのは、城南宮に出入りしておられる建築業者の皆様。現代は重機を使うこともあると思いますが、それも含めて一年間安全で京都の建築を支えて頂きたいと思います。
ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。
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