変わってきた京都の冬 最低気温が下がらない


1月16日は、京都の明治以来の観測史の中で、最も低い気温-11.9℃を観測した日です。今では信じられないほどの「極寒」が観測されたのは、なんと121年前。「京の底冷え」は、もはや昔の話になりつつあり、京都の冬は確実に変わってきています。今日はそんなお話です。

寒いといわれている今シーズンの冬。確かに寒い。京都の記録を平年値と比較してみると、2011年12月は-0.5℃で、階級分類では「低い(寒い)」となります。昨年の5月に平年値が更新されていますので、参考に昨年までの平年値と比べるとどうか?結果は、旧平年値比でも-0.4℃ということで、同じく「低い(寒い)」の階級に入ります。1月前半も低温傾向が続いており、13日発表の近畿の1か月予報では、この先2月にかけても平年並か低い可能性が高くなっています。まさにこの冬は「寒い冬」だといえそうです。ただ、今シーズンの最低気温はまだ-0.9℃止まり、もう少し下がる日が2月末までのどこかでやってくる可能性が高いでしょう。

さて、1891年に京都で観測された-11.9℃という驚異的な気温。もはや未来永劫、更新されることはないのかもしれませんね。それを検証していく前に、古い観測値を見る場合には、観測場所が変わっていないかという視点が重要になります。一般の感覚ではあまり距離が離れていなくても、観測値が結構違うことがあり、データの継続性にはよく注意せねばなりません。京都の場合、現在の場所で観測が始まったのは1913年の終わりから。その前は京都御苑内に測候所(観象台)がありました。つまり1891年の-11.9℃は現在の気象台の場所ではなく、京都御苑で観測されたものです。ちなみに「東京」の観測点も、2014年の気象庁の移転に伴って観測場所が変わり、現在は3か年かけてデータの比較を行っている最中。移転による影響チェックは、それほど慎重に行うべきものなのですね。

はて、困りました。京都御苑と現在の気象台の場所とは直線距離で2.5~3kmも離れています。念のため、今回の検証では1913年以前のデータを使うのは止めておきましょう。ということで、気象庁のデータベースから探せる1929年以降の「年間最低気温」の推移をグラフにしてみました。年毎のばらつきを平均化するために、5年移動平均(太線)もつけています。結果は一目瞭然。戦前(1945年以前)の京都の年間最低気温は概ね-6℃前後でしたが、都市化とともに気温が下がらなくなり、近年は概ね-2℃~-4℃の間です。

最低気温の記録が下がらなくなった理由を「都市化」と書きましたが、本当にそうなのか検証してみましょう。気象台では高層気象観測をしている地点があり、京都の近辺では、鳥取県の米子があります(ただし2010年2月まで。現在は松江に変更)。地上気温に影響する約1500m上空(850hPa)での観測値の記録を見れば、寒気そのものの強弱の変化が分かるはず。そこで、1957年の観測開始以来の年間最低気温を低いほうから並べてみると、10位以内(9時・21時合算)に入る記録が、1990年以降でなんと6回を数えています。すなわち寒気のレベルでいえば、近年も決して弱くはないわけです。

地上約1500mでは昔に負けず劣らず寒い時があるにも関わらず、京都の気温が低くならないのは、やはり都市化といえるでしょう。都市化はなぜ最低気温の低下を妨げるのか?舗装された道路やコンクリートの建物は熱を吸収しやすく、さらに冷暖房や車などによる熱の放出も盛んです。また、雨が降ってもすぐに流れてしまい、水田などが減ることで乾燥化が進み、水分が蒸発する際に奪っていく熱の量も少なくなっています。これは、湿度の観測値にも現れています。年間平均の湿度を1914年以降で見ると、こちらも一目瞭然で明らかに湿度が下がって乾燥化が進んでいます。

ということで、最後に-5℃以下まで下がったのも15年前の1997年まで遡らねばならず、今となっては-11.9℃という数字は破られる気配が全くありません。伝統的な「底冷え」は失われつつあり、京都の冬は確実に変化をしてきたといえるでしょう。余談ですが、都市化による環境の変化は特に最低気温に顕著に現れます。京都の「年間”最高”気温」の変化も、最低気温と同じ期間・同じ目盛りでグラフを作ってみました。年間最高気温の方は、最低気温ほど大きく上昇はしていません。概ね36℃~38℃の間で、昔も今も最高気温だけでみれば暑さの頂点はそんなに変わらないと言えるでしょうか。各方面で使われる「平均気温」で見比べればもっと顕著な上昇データが得られるかと思いますが、面白い資料です。

以上、最後に注意点を。今回の内容は参考文献を用いず、私の個人研究の範疇で(半ば思いつきで)記載しております。データの使用や記載内容については、注意はしていますが誤りがある可能性もゼロではありませんので、ご容赦頂ければと思います。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

「変わってきた京都の冬 最低気温が下がらない」への2件のフィードバック

  1. 初めまして、川崎と申します。昨日来、フェイスブックであなたの記事を拝見しました。素晴らしいガイドぶりに敬服いたします。熱気球を見るのが好きで、そこから気象に関心を持ち地球ウォッチャーズ気象友の会に、最近は太陽活動からオーロラのライブ観測にも。どれも生噛りですが(笑)古代史、旅行等なども好きで何にでもすぐに興味を惹かれます。そんなことで、これからも貴方の記事を楽しみに待っています。よろしくお願いいたします。

    1. 川崎さん
      コメントありがとうございます。
      様々にご活躍されておられるのですね。
      気象も歴史も共通点が多いと感じますので、
      学んだことや見てきたことを組み合わせて、
      想像力が湧き立つような、現実的でロマンもある記事を
      書いて行ければと思います。
      今後とも、お気軽に覗きに来て頂ければ幸いです。

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