春分の京都 昼の季節


20日は二十四節気の一つ春分の日でした。

数ある二十四節気の中でも、春分と秋分は国民の休日です。もともとは宮中で行われていた「皇霊祭」という歴代の天皇・皇后の霊を祭る行事に由来をしています。が、それがなぜ天文現象である春分と秋分に定められているのかは、簡単に調べた限りでは分かりませんでした。ただ、一般的なお彼岸信仰に由来しているのかもしれません。彼岸とは、彼の岸、向こう側のこと。どこと比べて向こう側かといえば、私たちのいる世界(此岸)から見てとなり、それすなわち、亡くなった方が行く悟りの世界である極楽浄土のことです。そして極楽浄土は西にあり、この春分や秋分の日は真西に太陽が沈むため、極楽を思い描くには最もよい日ということになります。春分や秋分はお彼岸の中日として、御先祖参りをするのが日本人の風習。また、お彼岸に牡丹餅(秋にはお萩)をお供えするのも、太陽を現わしているとする考えもあります。ちなみに、2012年の京都では、20日の日の出は方位角89.6°でほぼ真東、日の入りは同じく270.7°でほぼ真西。より厳密には前日の19日の方が真西・真東に近いですが、そこまでいう必要はないでしょう。

今回も嵐電の動画をご覧ください。春分は暦便覧では「日天の中を行きて 昼夜等分の時なり」と表現されています。日の出から日の入りまでを昼とする場合、春分の日は昼と夜の長さが同じになると思われがちですが、実はそうはならず、すでに春分の日には「昼」の時間の方が長くなっています。これには大きく二つの理由があります。一つ目は、日の出も日の入りも太陽の中心ではなく「太陽の頭」を基準としているためです。すなわち、太陽が地平線から頭を出した時が日の出、地平線に完全に沈んだ時が日の入りとなるため、太陽の中心を基準とした場合と比べて、太陽の直径分だけ昼の方が長くなります。ちなみに月や惑星は、その中心が地平線から出た時が「出」となります。日の出と月の出は、実は根本的な定義が異なっているのですね。

そしてもう一つの理由は「大気差」と呼ばれる現象があるため。実は・・・私たちが特に地平線付近で見ている太陽は「偽物」です。と、言いきると語弊があるかもしれませんが、少なくとも蜃気楼のようではあります。宇宙から差し込んだ太陽の光は、地球の大気を通過する際に弓なりに曲がって私たちの目に飛び込んでくるため、太陽の像は、実際よりも僅かに上方に見えています。地平線付近では光が大気の中を長く通過するため、この効果が無視できないほど大きくなり、日の出・日の入りでは、実際と比べて2分~3分程の差を生みだしています。つまり、厳密な天文計算では、日の出の時刻にはまだ太陽は昇る前、反対に日の入り時刻の前にすでに太陽は沈んでいるのです。これが「大気差」。厳密な日の出よりも前に太陽は昇り、厳密な日の入り後も太陽は沈まないので、天文計算上の昼と夜の長さが同じだとしても、実際の見た目は「昼」が長くなります。実は、一般的な日の出・日の入りの時刻には、この「大気差」が既に加味されていて、私たちの目と矛盾がないように調整されています。

以上のように、今年の春分の日の京都は、日の出は6時01分、日の入りは18時09分と、「昼」の時間が既に8分も長くなっています。また、日の出前や日没後には、空が明るく昼とあまり変わらず動ける時間があります。これを「常用薄明」または「市民薄明」といい、それぞれ30分ほどあります。これも加味して「昼」と考えると、実は2月の半ば過ぎには「昼」のほうが長くなっています。春分の頃はもう十分に明るい「昼の季節」に入っているといえるでしょう。

さて、日の出と日の入りには、他にも不思議なことがあります。同じ日本でもその時刻(≒時差)は思っている以上に大きく、春分の頃は、北海道の根室と九州の長崎では、およそ1時間もの差があります。他にも、「日の出は必ず東が早い(西が遅い)」とも限りません。春分や秋分の頃には太陽が真東から真西へ動くため、地球儀の経度に沿った形で日の出・日の入りの線も西から東へ動いて行きますが、夏至や冬至の頃には、この「日の出ライン」「日の入りライン」が斜めに傾き、一見不思議なことが起こります。例えば冬至のころには、東の札幌よりも京都の方が日の出は早くなり、夏至の頃は日本でも最も東の根室よりも千葉県の方が日の入りが早くなります。このように、単純に東ほど早くなるとも限らず、時差も「夏至の日の出」と「冬至の日の入り」では、根室と沖縄との差は2時間ほどに広がります。そして北へ行くほど、夏至と冬至の昼夜の差も大きくなります。このことは「白夜」でも知られていますね。意外と、日の出や日の入りも奥深いものがあります。

今回は説明が長くなりました。京都では、梅が3週間から1か月遅れて見ごろを迎え、道にもタンポポやナズナ、オオイヌノフグリも見かけるようになって、日増しに彩りが増しています。冬が寒い年は春がまとめてやってきます。今年は梅と桜が同時に楽しめる場所も各地で見られそうですし、まとめて咲く分、例年よりも一層華やかになりそうです。遅いのも悪いことばかりではありませんね。今年は「北国の春」に近いものが京都でも見られるでしょう。

先日ご紹介した一条戻り橋の早咲き桜。昨日(20日)また行ってみると、見ごろを迎えていました。地元のおばあさんが話をしてくれましたが、”息子が小学生の時に植え”、”ずいぶん大きくなった”と感慨深げに見られていました。凡そ30年ほど前のことでしょうか。ゆっくりとした木の成長は、人生の歩みにも重なるのでしょう。そんなおばあさんの話を聞きながら、円山公園のしだれ桜のことを思い出しました。あのしだれ桜も昭和28年に2代目が植えられた当初は、今と比べるとずいぶんと細く、「貧相な、品のない桜」と酷評されたそうです。今や押しも押されぬ京都の代表の桜にまで成長してくれました。近年「老い」も言われますが、まだまだ現役で、素晴らしい夜桜を見せてくれます。

他にも百万遍知恩寺の鐘楼の脇にある「ふじ桜」も満開で人々を引きよせ、出町柳の長徳寺前の「おかめ桜」も小ぶりな赤い花を開き始めました。しだれ梅がひと際目を引く車折神社の境内も、早咲き桜の宝庫。京都御苑の糸桜はまだ蕾ですが、枝がほのかにピンクに変わり始め、もう数日で花開きそうです。遅れていても着実に春は進んでいます。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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