古い由緒を持つお祭り 嵯峨祭の還幸祭


少し前になりましたが、5月27日は愛宕神社野宮神社のお祭り、嵯峨祭の還幸祭でした。他の京都のお祭りとは少し違った振り方をする剣鉾や、大覚寺の中に入っていく神仏が合わさった祭事が見られるのも特徴です。

愛宕(あたご)神社は愛宕山の山頂に鎮座する神社で、火除けの神として広く親しまれれている神社です。一方の野宮(ののみや)神社は、観光客を中心に嵯峨野の縁結びの神としてガイドブックでもおなじみの神社。この二つの神社には直接的な繋がりはないように見えますが、愛宕神社はかつて白雲寺と呼ばれた時代に大覚寺の管理下に置かれ、その大覚寺は嵯峨天皇の離宮を由来とし、その嵯峨天皇の皇女が斎宮として身を清めた地が野宮、すなわち現在の野宮神社のルーツです。連想ゲームのようですが、まとめると愛宕神社と野宮神社は大覚寺を通じて繋がっているといえます。また、実際の祭りの運営も氏子圏が重なっているために行いやすいのかもしれません。現在は二社あわせて祭りを行い、嵯峨祭と呼ばれています。

嵯峨祭は歴史の古いお祭りで、「京都三大祭」には明治に創始されて歴史の浅い時代祭ではなく、この嵯峨祭を入れるほうが適切だとする意見もあります。室町時代末期(戦国時代)の公家の日記にも見物の記録が残り、鎌倉時代にはあったとされていますが、由来については不明な点も多く、近年では平安時代に起源を持つとする説も出されています。また、江戸時代に描かれた見事な「嵯峨祭絵巻」の複製は清凉寺で展示されていたかと思います(本物はアイルランドのチェスター・ビーティー図書館に所蔵されています)。

見どころの一つは澄んだ音を響かせる剣鉾。剣鉾はその鐘の音や、輝き尖った剣先で災厄をもたらす疫神(えきじん)を集め、神輿が巡行する道々を清めて行くものです。京都の他のお祭りの剣鉾では、歩く動作で上下に振りながら鳴らして行きますが、嵯峨祭の剣鉾はさらに左右のひねりを加え、鐘をグルグルと巻きつけるように回して音を響かせるのが特徴です。この剣鉾は京都市の無形文化財に指定されており、古くからの形態を伝えているのでしょう(ただし、粟田神社・西院春日神社・平岡八幡宮・八大神社の剣鉾も同様に無形文化財に指定されています)。鉾自体は数十キロの重さがあり、持つだけでも大変なもの。しかも嵯峨祭の振り方は上下に振る方法よりも難易度が上がり、かなりの熟練の技を要します。見頃な足腰の筋肉をした男性たちが見事な音を響かせて歩いて行く様子は、感動すら覚えるほどです。

二つの神社のお神輿は2010年に解体修理をされて、美しく輝いています。還幸祭の一週間前の神幸祭で清凉寺前にある御旅所に祀られていましたが、この日は大覚寺から嵐山一帯を巡行していきます。お昼前には大覚寺に到着して神仏の合わさった儀式を行い、休憩もとります。私が到着した頃にはその儀式の部分は終わった後でしたが、大覚寺の門の中には剣鉾が入り祀られていました。お寺の境内に神社の剣鉾が並ぶのも面白い光景ですね。大覚寺を出発して行く様子は動画もありますので、ご覧ください。

大覚寺を出発した剣鉾は、嵯峨嵐山駅の北口と南口のロータリーでもそれぞれ澄んだ音を響かせてくれます。偶然出会った観光客は何事かといった様子でしたが、珍しい光景に喜んでおられました。剣鉾は要所要所でこうして鳴らして歩く一方で、基本的には車で移動をしています。また、お神輿は剣鉾とは別ルートで嵐山方面に向かいます。

嵯峨嵐山駅の次は、大堰川の北側に移動をして、子ども神輿やお稚児さんと合流し、川沿いを進んでいきます。子ども神輿もちゃんと愛宕神社と野宮神社に分かれていて、愛宕神社は男の子が、野宮神社は女の子が担いでいきます。愛宕神社は険しい山の上にあって確かに男らしく、野宮神社は源氏物語の舞台にもなるように女性的なイメージの神社。なかなか面白い割り振りですね。

剣鉾もお神輿もお稚児さんも、やはり渡月橋や嵐山の風光明媚な景色の中を進むとさらに引き立ちます。それほど人もいませんので、じっくり見られる場所でしょう。また、渡月橋の北詰めでは、獅子舞がアクロバティックな技の数々を披露してくれます。見事な鍛錬の成果に、観光客からは大きな拍手が起こっていました。そして「見られて運が良かった」との声も。確かにたまたま嵐山に来られてお祭りに出逢えるのはラッキーですね!

お神輿は渡月橋を渡りませんが、野宮神社のお神輿は巡行の順番待ちのため、一時的に渡月橋の上に入ります。橋の上に乗るお神輿もやはり絵になる光景でした。その後、巡行は渡月橋から北へと嵐山のメインストリートを通って御旅所へ戻っていきます。観光客からは大きな拍手で迎えられていました。「嵯峨祭」と名がつくだけあって、嵐山や嵯峨野を練り歩くお祭り。古い由緒を持ち、見ごたえもありますので、機会がありましたら是非ご覧になってみて下さい。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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