出雲に雲は出るのか!? 気象からのアプローチ その2


京都国立博物館で9月9日まで行われている大出雲展。前回に引き続き、今回も出雲国に雲は出るのかを検証して行きます。

前回は、大きく見た出雲国は隣国の石見国と比べて、冬の季節風がもたらす「すじ状の雲」が現れやすいということをお話ししました。今回は、さらに狭い範囲「出雲郷」において「雲」が出やすいという話をしていきます。・・・出雲国には風土記が完全な形で残されており、出雲国の名の由来については「出雲と号する所以は 八束水臣津野命(ヤツカミズオミヅヌノミコト) 詔りたまひしく【八雲立つ】と 詔りたまひき 故、八雲立つ出雲と云ふ」と書かれています。つまり八束水臣津野命が「八雲立つ」と言ったから出雲と名付けたというのです。また出雲国には、出雲郡と出雲郷があります。出雲郡については「名を説くこと国のごとし」という一文があり、すなわち出雲郡も出雲国と同じ理由から出雲と名付けられたといっています。出雲郡の中心地は風土記の記述や発掘調査などにより、出雲郷であることが分かっていて、出雲郡の名は出雲郷に由来すると考えるのが妥当。すなわち出雲郷にも”名を説くこと国のごとく”「八雲立つ」気象条件があるはずです。

出雲郷の場所は、現在の地名では出雲市斐川町求院(ぐい)・出西(しゅっさい)・神氷(かんぴ)・富(とび)の地域に比定されています。この場所は、かつては出雲大川とも称された出雲最大の河川・斐伊川(ひいかわ)が、山間部から平野部へと出る場所に位置しています。実はこの地勢にこそ、出雲郷が「出雲」を冠する秘密が隠されていると私は考えています。具体的には「霧」です。山地で冷やされた冷気は密度が高いため重くなり、低い場所を流れる川に集まります。すると冷気より川の水温が高いと、川霧(蒸気霧)が発生しやすくなるのです。川霧は冬の気温が下がった朝に発生しやすく、実際に現地の方からその証言を得ました。そして出雲郷が山間部から平野部に出る場所にあるということは、上流部で発生した霧が川に沿って吹きだす場所ともいえ、遠方から見ればまさに霧が雲のように、すなわち「出雲」として湧き立つように見えるの場所なのです。出雲郷のすぐそばには神が宿る山とされる神奈備(かんなび)山(仏経山)もあり、遠方から出雲郷を望む機会も多かったことでしょう。また、周辺の山では、悪天時にも谷筋に沿って霧が発生しやすいことも分かっています(現地での証言あり)。こちらも雲が湧くように見えたことでしょう。

また、出雲郷から平野部へ出る斐伊川は、実は八岐大蛇(やまたのおろち)そのものだとも考えられてきました。スサノオが八岐大蛇を退治する神話は有名ですが、その視点から行くと、蛇のように暴れる斐伊川を治水した話とも考えられます。斐伊川は上流部に風化しやすい花崗岩が多く、流れる土砂が川を埋め、京都の鴨川と同様に洪水を多発させた川でした。出雲国を形作り、「八雲立つ」と称した八束水臣津野命も、その「オミヅ」という名から「大水」が連想され、洪水とのつながりがあるとも考えられています。すなわち、斐伊川は出雲国にとっては非常に重要な川であり、出雲郷は斐伊川が山間部から平野部に出る場所に位置することで、斐伊川(出雲大川)が生みだす川霧が雲のように見えたり、あるいは山沿いに雲が湧いていることが目に付きやすい場所だといえるのです。

この流れからいえば出雲郡や出雲郷が出雲国の中心地のように感じますが、実はそうではなく、出雲国の中心地は意宇(おう)郡でした。これは出雲郷が出雲郡に、そして出雲国へと名前が繋がっていたのではなく、まず国全体として湧き立つ雲が印象付けられる気象特性があり、その国の中の一地域として雲が出やすい場所としての出雲郷があると推察できるでしょう。いずれにしても、出雲国も出雲郷も、それぞれ気象特性的に「雲」が出やすいと言うことは出来ます。

「出雲国」という文字は、天武天皇の時代に作られた庚午年籍(670年)で国名の統一表記がなされるようになってから用いられたする説があり、現存するものでは鰐淵寺(がくえんじ)にある、西暦692年作とされる観音菩薩像の台座に刻まれた文字が最古です。出雲の漢字は古事記や風土記の編纂時期よりも古くから用いられ、1200年以上を経ているわけです。他の国でも、日向、近江、遠江、三河、三野(美濃)など、その国の自然的特徴を国名にした名前はあり、出雲国も文字通り雲が出る国であると古人が考えていたとみても不自然ではないでしょう。

以上、実際の私の論文ではもっともっと詳細に丁寧に、過去の気候分析や気象メカニズムの解説・河川の水温・他説の検証・現地の証言などから論じています。このブログに書いた内容はかなり論拠を省いて記載していますので、伝わりにくい部分があったかとも思いますが、いずれにしても出雲国には、国のレベルで、あるいは郷のレベルで、それぞれに「雲」が出やすく、あるいは雲が出ると感じる気象特性があると考えています。

出雲国は古事記などの神話の舞台でもあり、大国様のお社・出雲大社は今も多くの人々を引き付けています。また、風土記が残っていることからも1200年前の情景をありありと思い描ける国でもあります。たくさんの銅鐸が見つかった加茂岩倉遺跡や、出雲大社の巨大な柱など考古学的にもロマンを誘う発見がありました。宍道湖の夕日・風景は本当に美しく、日御碕(ひのみさき)の灯台に昇れば美しい日本海を果てまで望むことが出来ます。個人的には、大出雲展のポスターにも使われている「見返り鹿」を見ると、出雲国に情熱を注いでいた学生時代を思い出します。皆さまも機会がありましたら是非、神話の国・島根県に足を運んでみて下さい。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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