台風18号により浸水被害にあった下鳥羽と嵐山を訪れてきました。どちらの地域も復旧作業が進んでいます。
台風が過ぎ去り、京都も青空が広がっています。これだけテレビなどで京都の被害が報道されると、観光できるのか心配になる方もおられると思いますが、ほとんどの場所は全く問題ありません。嵐山も被害にあっているのは川沿いの一部に限られており、桂川に近い天龍寺でさえ、被害はありません。浸水被害にあわれた川沿いのお店も、本日(18日)訪れてみると、営業を再開した店舗がありました。恐らく今週末の連休までには、復旧する店舗が増えてくると思います。嵐山の山並みも、土砂崩れなどは全くなく、秋の紅葉も心配はないでしょう。
一方、東山では清水寺の土砂崩れのニュースが出ています。ただ、こちらも大きな問題はなさそうで、現在は土の中に含まれている水分量も下がっていて、新たに災害が発生する危険は小さいでしょう。拝観も経路の変更で対応できているようです。また、南禅寺でも土砂災害が発生しましたが、現在復旧にあたっていて、拝観休止は19日までの予定です。被害は京都全体からみればごく限られた範囲ですので、これからの秋の観光シーズンには、美しい京都が迎えてくれるはずです。どうぞ積極的に訪れて頂き、むしろ被害にあわれたお店やお寺などで、復旧ぶりを目にして頂ければ幸いです。
17日は、鴨川が氾濫した下鳥羽を訪れてきました。多くの方がご存じの嵐山は、報道が積極的に様子を伝えますが、下鳥羽や羽束師の浸水個所は、やはり目を向けられることが少なくなりがちです。現場は、国道1号線にも近く、地元の方の話によると一時は国道まで水が溢れたそう。17日には水が引いていて、一見いつも通りのようですが、一部には生々しい爪跡が残されていました。通りかかった地元の方が、唖然とする私に当時の状況を聞かせて下さいました。
下鳥羽で川が溢れたのは、「鳥羽の大石」がある場所で、子どもたちが遊び、地元の方は犬の散歩をするようなところです。普段はとても穏やかな風景が広がって、個人的にも鴨川流域では好きなエリアでした。ところが、地元の方の話によると、この部分は堤防が少し低くなっていたそうで、真っ先に水が溢れていましました。加えて100mほど下流に、古い橋の残骸があり、そこに流木などがひっかかってダム化したことも溢れた原因だろうとのことでした。昭和10年の水害でも、四条大橋がダム化して先斗町などが浸水しましたが、似たようなメカニズムだったようです。
溢れた水はあっという間に下鳥羽に流れ込んだそう。避難所の小学校に行こうとしても、校庭に水が流れ込んでとても行けなかったそうです。「水が上がるのが速かった」、「怖かった」と生々しいお話が次々に出てきました。溢れた場所から少し南の部分は近年堤防を1mほどかさ上げしていたそうで、その分でギリギリ越水は免れました。「あと1時間でも雨が長く降っていたら、溢れていたのでは」というお話もありました。
今回は堤防の決壊がなかったため被害は限定的でしたが、漂流物を見ていると、堤防下の数十cmほどまで水は来ている痕跡がありました。地元の方によると、桂川と合わせて300mほどある川幅いっぱいに濁流が流れていたそうです。通常は見えている二つの川の境目の陸地も完全に水没し、その光景は子どものころから住んでいるというおばあさんでも、記憶にないとのことでした。「堤防が決壊しなくて本当によかった」と、地元の方は口をそろえておっしゃっていました。
下鳥羽では京都市の職員が数十名規模で復旧作業にあたっていました。土砂をかき出し、流れてきた木々などを片づけ、重機やゴミ収集車も何台も来て、一気に進めている印象です。こうした行政の動きはあまり報道されませんが、鴨川沿いの遊歩道も急ピッチで清掃が進んでいました。風によって通りに落ちた枝なども、いつの間にやら綺麗に無くなっています。このような知られざる活動によって、京都の景観は保たれています。
鴨川や桂川の堤防は何とか持ちこたえましたが、実際には危ない場面もあったようで、堤防の下から水が噴き出していたという証言もありました。また、内水氾濫なのか、側溝から水があふれ出して浸水したという話も聞きました。下鳥羽だけでなく、中書島駅の辺りも浸水したそうです。その方は、身の危険を感じて、高台の桃山に避難をしていたそう。この付近は、嵐山の渡月橋付近以上に切迫した状況にあったのかもしれません。
橋を渡って桂川沿いを北上すると、堤防の草の流れから水が溢れてしまったことが確認できる個所がありました。この辺りは羽束師の鴨川町で、浸水している場面が報道でも流れていた地区です。既に水が引き、清掃も終わったようで、ややほこりっぽいことを除けば大きな被害はないようにも見えます。しかし、実際には、かなりの範囲が浸水していたと思われます。羽束師や久我、牛ヶ瀬の辺りは、桂川の水害に特にあいやすい地域で、過去にも度々浸水被害が発生しています。
桂川沿いの堤防には、長い範囲にわたって土のうが積まれていました。恐らく、少しでも流れを食い止めようと必死の対応がなされていたのでしょう。危険な状況の中で動かれる水防団の方々にも、心から感謝をしたいと思います。それにしても、桂川や鴨川下流部の水位は本当に「紙一重」だったと感じます。浸水被害は出ましたが、堤防の決壊やさらなる降雨など、一歩間違えばより広範囲で甚大な被害が発生していてもおかしくなかったでしょう。地元の方も、口々にそうおっしゃっていました。
今日(18日)の夕方には、嵐山へと行ってきました。渡月橋付近を中心に川が溢れましたが、多くの方の尽力によって急ピッチで復旧作業が進んでいます。店舗の中には、早くも営業再開にこぎつけたところもあります。報道でも紹介されていまいたが「嵐山は元気だ」と強く訴えているお姿が印象的でした。実際、渡月橋も普通に渡れますし、修学旅行生も来ています。全体としては十分に観光を楽しむことができるでしょう。
一方、渡月橋を渡った中ノ島の付近は被害が甚大で、まだまだ多くの方が復旧作業を行っていました。ボランティアの受付場所があったので、手伝えることがないかと確認をしてみると、各お店の方はなんとかお店の方で復旧できる段階にまでなってきたそうです。ただ、周囲のゴミの回収を手伝ってもらえるとありがたいとのことで、軍手をお借りし袋をもらって、中ノ島に流れてきた枝等を1時間ほどですが清掃させてもらいました。
この辺りには、近くの大学や高校から続々と人出が集まっていて、遠方から来て下さったボランティアの方もおられました。人力車のえびす屋の皆様は、屈強な体格を活かして力仕事に活躍し、ずっとここに住んでいるという年配の方は、明るく指示を出しておられました。大きな被害を受けた旅館には、たくさんの学生ボランティアが入り、汚れたものを水で洗って綺麗にしていました。
私もほんの微力ながら黙々とゴミを拾わせて頂きながら、早く復興してほしいと心から願わずにはいられませんでした。被害にあわれた方の心中はたいへん辛いものがあるでしょう。私自身の至らなさ、無力さも感じます。京都の災害史を知る散策も2年前から実施をしてきましたが、近々収益は全額寄付をするチャリティで実施できないか検討をしています。徐々に復興していく様子も、このブログでは書いていきたいと思います。繰り返しになりますが、京都は全体的には大きな被害はなく、被害にあった場所も、急ピッチで復旧作業が進んでいます。どうか、秋の観光シーズン、いつものように足を延ばして頂ければと願っています。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。