泉涌寺の雲龍院は、泉涌寺の中でも最も奥にあり、梅や紅葉も大変美しいお寺です。いくつもの窓から眺めるお庭は見る場所によって印象が変わり、さらにどこも美しく、京都に数多くあるお庭の中でも、私がお勧めしたい場所の一つです。雪の日もさぞ美しいに違いないと思い、期待しながら向かいました。このころは雪の量が5cmを超えて、10cmに迫ろうかという勢いで増えていて、境内は大量の雪に覆われていました。
参道には剪定の行きとどいた白梅の木がありますが、ほころび始めた花が重い雪に覆われていました。雪の白さと白梅の白さは似通っている部分があって、さながら「花の色は 雪にまじりて見えずとも 香(か)をだににほへ(匂へ) 人の知るべく(小野篁 古今和歌集)」といったところでしょうか。古人も雪の風景を眺めては「美」を感じていたのでしょう。
雲龍院の建物に上がり、まず向かったのは「しき紙の景色」。数年前の紅葉シーズンに報道ステーションで紹介されて記憶に残っている方もおられるかもしれません。特定の場所に座ると、色紙のように正方形に区切られた4つの窓から、椿、灯籠、楓、松の景色をそれぞれ眺めることができてしまうのです。これはいつ見ても見事。その特定の場所にはちゃんと座布団が敷かれていますので、是非眺めてみて下さい。雪の日も松や椿の緑、灯籠の造形、楓に積もった白とそれぞれの窓が綺麗でした。
雲龍院にはもう一つ、素晴らしい窓があります。それが「悟りの窓」とも呼ばれる丸窓。その奥には紅梅の老木があり、3月に入ると優美な花を咲かせ、例年「梅の名所」としても私がお勧めする場所です。まだ2月中旬とあって開花はしていませんでしたが、梅らしい独特の枝ぶりに綺麗に雪が積もった様子が丸窓の奥に覗いて、まさに絵画を見ているかのようでした。これを見たくて、雲龍院に来たと言っても過言ではありません。
丸窓がある部屋から振り返ると大きな楓の木もあり、普段からは想像が付かないほど「どっさり」と雪が積もっていました。また、反対側の障子をあけると、掛け軸のようにまた別の楓を見ることもできます。雲龍院は、このように様々な窓から眺めるお庭の風景が殊のほか綺麗で、四季折々に変わっていく窓の奥のお庭が訪れるたびに目を楽しませてくれます。
拝観経路を戻って大輪の間(客殿)に移動すれば、こちらも雪見障子からまさに見事な雪見をすることができました。こんな雲龍院は初めてで、まるで別なお寺に他やってきたかのようにさえ感じます。障子をあけたり、あるいは座る場所を変えることで様々に見え方が変わり、窓の造りだす芸術には感動するばかりです。この後の写真で、読者の皆様にもお伝えできればと思います。
霊明殿へと移動をすると、前に立つ徳川慶喜寄進の燈籠の周りに描かれた菊の御紋が雪に浮かびあがっていました。霊明殿は歴代の皇族の位牌堂で、北朝の後光厳天皇や後円融天皇の座像が安置されています。この灯籠は元々は泉涌寺にある孝明天皇陵にありましたが、幕末の混乱時に薩摩藩が投げ捨て、それを雲龍院の住職が夜中にこっそりと取りに行かせたのだとか。灯籠一つにも深い歴史がありますね。
本堂である龍華殿(りゅうげでん)は重要文化財で、藤原時代の薬師如来像と日光・月光菩薩像が安置されています。龍華殿の前には梅の木がありますが、すっかり雪に埋もれていました。この梅は比較的遅咲きですので、3月半ば以降に見ごろを迎えてくると思います。奥には勅使門も見えています。雲龍院は写経の道場としても知られ、後水尾天皇が寄進した写経机を今も使って写経をすることができます。四季の風景も美しく、3月は梅が咲いておススメの時期でもあります。機会がありましたら、足を延ばしてみて下さい。
なお、雲龍院の後には今熊野観音寺も覗いてきました。雪が強く多宝塔はかすんでいましたが、境内一面の雪はまさに非日常の世界でした。こちらも写真を掲載しますので、ご覧下さい。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。