北野天満宮の梅が見ごろを迎えています。今週末は境内一円に甘い香りが満ちています。
先日、北野天満宮の梅を眺める散策を開催しました。予定通り見頃で、美しい光景で迎えてくれました。平日でしたが多くの人が訪れていて、満開の梅の彩りと、芳しい香りを楽しんでいました。北野天満宮の祭神は菅原道真で、幼いころから梅が大好きだった人物です。まだ「阿呼(あこ)」いう名前だった5歳の時に、庭に咲く紅梅を眺めて「美しや 紅の色なる梅の花 あこが顔にもつけたくぞある」と和歌を詠んだと伝わります。後に「風月の本主」と称される和歌の才能は、このころから発揮されていたのかもしれません。
道真が九州の大宰府へと左遷される時に詠んだ「東風吹かば にほひおこせよ梅の花 主なしとて春を忘るな」の歌も有名です。大宰府へ家の主の私が行ってしまっても、春を忘れずに花を咲かせ、都から吹く東風にのせて梅の匂いを届けておくれ、といった意味。別れの寂しさ、無念さをあらわす名歌として、現代に至るまで人びとの心に響いています。
実はこの話には少し続きがあり、大宰府へ道真が行ってしまった後、大宰府の邸宅に京都の紅梅殿(道真邸)から梅の枝が飛んで来て、そのまま生えついたといわれます。あるいは道真に長く仕えた白太夫(しらだゆう:渡会晴彦)が、秘かに梅を大宰府に持ち、道真には「飛んできた」と伝えたともいわれます。大宰府で失意の日々を過ごす道真は、ある時その梅を見ながらこんな歌を詠みました。「ふるさとの 花のものいふ世なりせば いかに昔のことをとはまし」。故郷の梅がものを言うとするならば、どれほど昔のことを問うだろうか、といった意味です。道真がこうして梅の枝をしみじみと眺めていると、なんと梅の木が漢詩で返事をし、道真が去った後の旧家の荒れようを伝えたとされています。
こうした飛梅(とびうめ)の伝説はなかなか面白く、他にも、京都の道真邸にあった桜は別れを悲しみ枯れてしまいましたが、梅と松は道真に会いに行こうとして、ついに大宰府を目指して空を飛び、松は今の神戸市の板宿で力尽きて落下し、梅だけが大宰府にたどり着いたとも伝わります。いずれにしても、道真公と梅に深い深いつながりがあるということは、時代を越えて人々が知るところ。実は、北野天満宮の梅は、人びとが神社に参拝をして願いがかなう度に、お礼として奉納していったものです。信仰の心によって現在のような梅香る境内が生み出されました。
境内には、早咲きから遅咲きまで、開花時期の違う梅がバランスよくそろっていて、全体として梅の見頃が長いという特徴があります。この点は、一斉に咲いて一斉に散る城南宮の梅とは異なっていて、ガイドも安心しておススメできます。まだまだ見頃は続きそうですので、華やぐ境内へと足を延ばしてみて下さい。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。