5月4日は、上賀茂神社で斎王代・女人列 御禊(みそぎ・ぎょけい)神事が行われました。斎王代を中心に煌びやかな平安装束に包まれた一行が、上賀茂神社の川で身を清める神事です。
斎王代は、かつて賀茂の神に仕えた皇族の未婚の女性・斎王の代理という意味の呼び名です。斎王とは伊勢神宮と賀茂社に奉仕した宮中の未婚の女性の総称で、斎王のうち賀茂社に奉仕した者を潔斎場所にちなんで特に斎院とも呼びました(伊勢神宮に奉仕したものは斎宮と呼ばれる)。賀茂の斎王(賀茂斎院)は、鎌倉時代初めの後鳥羽天皇の代で終わりましたが、現在は、昭和31年(1956年)に葵祭に加わった斎王代を中心とする女人列が、上賀茂・下鴨の両神社で隔年交代で御禊(みそぎ)神事を行います。今年は上賀茂神社の順番でした。
斎王の制(賀茂斎院の制)が始まったのは、嵯峨天皇が兄・平城上皇との争いである「薬子の変」の平定を賀茂の神に願った際に、願いがな叶えば賀茂の神へと奉仕する女性を出すと願をかけたためです。その後、無事に乱が鎮圧された暁として、嵯峨天皇の皇女・有智子(うちこ)内親王が僅か4歳で斎王となり、以後20年ほどお役目を務められました。なお、斎王は斎院と呼ばれる場所で清らかな生活をしていました。有智子内親王が過ごした斎院の場所ははっきりしないそうですが、現在の櫟谷(いちいだに)七野神社付近に、歴代の斎王が過ごした斎院があったと考えられています。
斎王は神に仕える身として身を清める禊(みそぎ)を行う必要がありました。現代でも神社には手水屋がありますが、水には穢れを洗い流し、身を清める役割があります。賀茂の神は賀茂川(鴨川)に沿って鎮座する水の神であり、現在も上賀茂神社・下鴨神社には小川が流れています。両神社の参道はその小川の上を橋で渡っていて、参拝者も参道を通ることで、知らず知らずのうちに穢れを落としてから参拝をしているのです。かつての斎王は鴨川で穢れを落とす禊をしていましたが、現在の斎王代は、それぞれの神社に流れる川に手を浸して禊を行います。また女人列の皆様は、上賀茂神社では人の形を紙でかたどった「人形(ひとがた)」に息を吹きかけて穢れを移し、川に流すことで身を清めます。
様々な歴史的背景はあるにせよ、斎王代や女人列はその美しい平安装束から純粋に「雅(みやび)」と感じられるもの。やはり毎年見るたびに、その美しい衣装に目をひかれます。禊神事の斎王代は重さが20kgほどはある十二単(じゅにひとえ)の衣装を着て、ゆっくりと歩かれます。こうした一つ一つの所作も「雅」さを高めているのかもしれませんね。ちなみに斎王代は一般公募はしておらず、京都ゆかりの寺社や文化人の令嬢から選ばれるのが通例となっています。その理由は、一説には高額の費用がかかるためともいわれます。葵祭の行列(路頭の儀)の催行だけで2900万円、雨が降ればクリーニング代金に数百万円から1000万円。その他の神事諸々を入れると、さらに費用がかかるはずで、雅さの裏には現実的な話も隠されているのです。
今年は、「ことぶら」さんで、儀式を見学する散策を開催させて頂きました。多くの方にご参加頂きまして、ありがとうございました。天気にも恵まれ、全体的にも多くの方が訪れたと思いますが、雅な斎王代や女人列は一足先に葵祭の優雅な風情を感じさせてくれました。私も散策の解散時間で、禊で川に手を付ける場面の撮影に成功しました。禊が見られる場所は早い時間帯からカメラマンが陣取り、報道のスペースも広いため、後から行って禊を見るのはかなり難しく、写真まで撮れたのは非常にラッキーでした。5日には、上賀茂神社で競馬会神事が行われます。斎王代の雅さからは一変して荒々しい馬の神事。雨天決行ですので、よければご覧になってみて下さい。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。