弘源寺は例年春と秋に特別公開される天龍寺の塔頭で、2019年は10月5日~12月8日の日程で500円で公開されています。宝厳院とのセットだと900円となります。寺は、永享元(1429)年に、室町幕府の管領であった細川持之が、天龍寺の開山である夢窓国師の法孫にあたる玉岫(ぎょくしゅう)禅師を開山に迎え創建されました。創建当時は小倉山の麓に位置し、北は二尊院、南は亀山にいたる広大な寺領を有していましたが、幾度かの火災に遭遇して変遷を重ね、明治15年に末庵である維北軒と合寺して現在に至っています。
本尊は聖観世音菩薩ですが、知られているのが毘沙門天立像です。伝承ではインドの仏師によって刻まれ、中国を経て日本へ伝来したという、いわゆる三国伝来の像とされ、大きく腰をひねった姿が印象的。実際には九世紀後半以降の平安時代の作とされ、寺伝では比叡山の無動寺にあったものが移されたとのことです。お堂に掲げられている扁額は弘法大師空海の直筆とされ、天井には藤原孚石の筆による四季草花48面の絵画が描かれています。
また本堂内の柱には、生々しい刀傷が複数個所に残っており、これは幕末の1864年の蛤御門の変に際し、天龍寺に陣を構えた長州藩の軍勢が、血気に逸り試し切りなどをしたものと伝わっています。特別公開では本堂内にて竹内栖鳳をはじめとする日本画家の作品が展示されていて、見ごたえがあります。
また、庭園は「虎嘯の庭」と呼ばれています。虎嘯(こしょう)とは、「龍吟雲起、虎嘯風生」(龍吟じて雲起こり、虎嘯きて風生ず)という禅語から来ている名。「龍吟」は枯れ枝の間を抜ける風の音を表し、「虎嘯」は大地より涌出る朗々たる響きを表し、すなわち禅の悟りの境涯を表すとのこと。嵐山を借景にした枯山水庭園は心落ち着く眺めでしょう。本堂の手前付近では、20日時点ですでに葉が赤くなっている木もありました。広い境内ではありませんが、見どころのあるお寺ですので、機会がありましたら訪れてみてください。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
第15回・第14回京都検定1級(合格率2.2%)に2年連続の最高得点で合格。気象予報士として10年以上。京都検定マイスター。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳」監修。特技はお箏の演奏。